大人になり切れていない親に育てられていませんか?
私はすでに親になっていますが、「大人になり切れているか?」と聞かれると、「うーん」と悩んでしまいます。
とはいえ、湊かなえさんの小説『母性』の主人公のように、子供よりも自分を優先する親ではないと思うんですよね。
どちらにしても、主人公である母親にイライラする物語でした。
おすすめ度:
こんな人におすすめ
- 母性とは何か考えてみたい人
- 大人になり切れていない母親に育てられた子供の人生に興味がある人
- 驚きのあるトリックが楽しめるミステリーが好きな人
- 湊かなえさんの小説が好きな人
あらすじ:女子高生が転落死した謎に迫るミステリー
物語は、ある女性教師が同僚の国語教師と「りっちゃん」というたこ焼きが売りの飲み屋で、
今朝の新聞に載っていた事件について会話をするところから始まります。
その事件とは、県立高校に通う17歳の女子高生が自宅のある4階から転落して中庭で倒れている姿を母親に発見された…というものでしたが、
女性教師が気にしていたのは、事件そのものよりも、その母親の言葉でした。
「愛能う(あたう)限り、大切に育ててきた娘がこんなことになるなんて信じられません」
それから月日は遡り…。
物語の主人公であるルミ子は、当時通っていた絵画教室で知り合った田所哲史と結婚します。
ルミ子は田所に興味はありませんでしたが、母が彼の絵に興味を持ったのでデートをするようになり、
また、プロポーズをされたときも、母が結婚を認めたので、彼と結婚することにしました。
つまり、ルミ子は母を誰よりも愛し、優先していたんですよね。
そんなルミ子に娘の清佳が生まれ、幸せな月日が流れていきましたが、
清佳が小学校に入る少し前に台風が訪れ、ルミ子たちに悲劇が襲います。
川が氾濫し、町中が水浸しになっていたちょうどその頃、ルミ子の家では、大好きな母と娘の清佳がタンスの下敷きになっていたのです。
さらに家が火事になり、時間のない中でルミ子はどちらか一人しか助けられない状況に追い込まれました。
このとき、ルミ子は娘の清佳ではなく母を助けようとしましたが、母の懇願もあり、清佳を助けることにしますが…。
という物語が楽しめる小説です。
感想①:大人になり切れていない母親にイライラする
先ほどあらすじでも紹介しましたが、ルミ子は、娘を愛することよりも、自分が娘として愛されることを望んでいました。
子供を産んだにも関わらず、大人になろうとせず、子供のままでいたかったんですよね。
とはいえ、ルミ子の母は、自分よりも娘の清佳を愛してほしいと思っていました。
山口恵以子さんの小説『毒母ですが、なにか』に出てくる毒母とは対照的に、
母である自分よりも、子供本人の意思を大切にして欲しいと思い、
孫である清佳のことを一番に考えて欲しいと思っていたのです。

このように考えると、ルミ子の母は、まともに思えてきますが、それでもルミ子がこのように育ったのは、ある原因があったからです。
ルミ子は、自分の頭で考えて行動することが出来なかったんですよね。
そのため、火事で家が焼けた後、夫の家族と暮らすことになったときも、
どのような理不尽な目にあっても…、どれだけ体調が悪くても義母に言われたとおりに家事や畑仕事をしたり、
身ごもった子供が流れてしまうような目にあっても、義母の言うことを聞き続けます。
このようなルミ子の姿を通して、他人から支配されることでしか愛情を感じられない生き方をしていては、絶対に幸せになれないことがわかる物語です。
感想②:親と同じ行動とる娘に衝撃
一方のルミ子に育てられた清佳も、母と同じように自分を見てほしいという一心で行動するようになりました。
ただし、ルミ子と決定的に違うところは、清佳は本当に母からの愛情を注いでもらえなかったところです。
ルミ子は娘を放ったらかして、母や義母にばかり目がいっていました。
それにも関わらず、ルミ子は、
「愛能う(あたう)限り、大切に育ててきた娘」
なんて大げさな表現をするんですよね。
とはいえ、よくよく考えてみると、本当に愛情を注いできたのなら、普通のことをしてきた、当たり前のことをしてきたと言うはずです。
肉じゃがやサバの味噌煮などの手料理を毎日作ってる人が、「おふくろの料理を作ってきました」とは言いませんよね。
一方で、インスタント食品とか三食ろくに食べさせていない親に限って、「おふくろの味を」とか「栄養バランスのとれたメニューを」とか言い出します。
漫画『鬼滅の刃』で大人気のキャラクター・善逸(ぜんいつ)も、
鬼を見るとパニックになって逃亡したり、「いつ死ぬかわからないから結婚してくれ!」と女の子にすがりついたりと大げさな行動ばかりしますが、
ルミ子は、自分の娘に向かって、本気でそんな行動をとっていたのです。
それにも関わらず、ルミ子は、子供に愛情を注いでいると思い込もうとしていました。
こうしたルミ子の思い込みが、清佳というまるでルミ子の分身のような存在、母の愛情を求め続ける子供を生み出したのだとよくわかる物語です。
感想③:運命は変えられないのか?
では、ルミ子のような親に育てられた子供は、親と同じような一生を送るしかないのでしょうか。
たとえば、柚月裕子さんの小説『盤上の向日葵』では、
親と同じような人生から抜け出せない、宿命を変えられない主人公の姿が描かれています。

一方で、親とは直接関係しませんが、北川恵海さんの小説『ちょっと今から仕事辞めてくる』では、
ブラック企業に勤めていた主人公の青山隆が、休日も取らずに働き続け、それでも上司から怒られる日々に嫌気がさし、自殺しようとしますが、
ヤマモトと名乗る同級生と出会うことで、新たな一歩を踏み出す姿が描かれています。

このように物語によって、運命は変えられる、変えられないのスタンスは大きく異なりますが、
イヤミスの女王と呼ばれる湊かなえさんが、『母性』で描いた結末は…。
ぜひ実際に読んで確かめてください。
まとめ
今回は、湊かなえさんの小説『母性』について、あらすじと感想を紹介してきました。
湊かなえさんの小説の中では、あまり有名な作品ではありませんが、ちりばめられた謎が気になり、最後まで一気に読んでしまう物語です。
気になった方は、ぜひ読んでみてください。
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