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(※『魔王』表紙より)


 伊坂幸太郎さんの小説『魔王』。政治を舞台に、他人の意見に同調することの怖ろしさと自分の考えを信じる大切さを教えてくれる物語です。

 今回は、『魔王』のあらすじと感想を紹介します。

 『魔王』のあらすじと感想

1.『魔王』

「考えろ考えろマクガイバー」

 どんなことでも納得するまで考え続ける安藤は、ある日、自分の考えを他人に発言させる能力があることに気づきます。

 一方、その頃の日本は、衆議院選挙が間近に控え、未来党の党首である犬養に注目が集まっていました。

 犬養は「五年で駄目なら首をはねろ」などと分かりやすくて力強い言葉を口にし、多くの若者たちから支持されていましたが、安藤は犬養にムッソリーニのような帝国主義を見出していました。日本国民を犬養の考えで統一するように思えたんですね。

 そんな中、日本代表のサッカー選手がアメリカ人選手に刺されたことをキッカケに、日本中にアメリカ批判が巻き上がります。マクドナルドのお店やコカコーラの自動販売機を壊したり、近所に住むアメリカ人の家を燃やしたり…。

 犬養はそれをうまく利用し、「日本は唯一の被爆国である」「有効な武器として主張するべきだ」と演説。その結果、さらに彼の人気は高まりました。

 ちょうどその頃、犬養は安藤が勤める会社の駅の近くで演説をすることに。安藤は腹話術の能力を駆使して犬養に立ち向かう!?

 カリスマ的な存在に多くの人たちが煽られ、思考も行動も統一されていく怖ろしさが描かれた物語。ヒトラーやムッソリーニも、犬養と同じように多くの人たちを煽動してきたのかもしれませんね。

2.『呼吸』

 犬養と安藤が対決してから5年後。

 安藤の弟・潤也は、環境調査の仕事につき、一日中山奥でオオタカやノスリなどの飛行経路を記録していました。

 兄とは反対に考えるよりも直感を信じて行動するタイプの潤也。彼は兄が亡くなってから、じゃんけんに勝ち続ける能力を手にします。その能力で競馬で億を超えるお金を稼ぐことに。

 潤也はその大金を使って、妻との生活を守り抜く!?

 お金で人を救うことができるのか?がテーマの物語。結末が明かされずに終わるので、私たちの捉え方次第でどちらにもとれます。

 これこそが「考えろ考えろマクガイバー」ということでしょうか。

 最後に

 安藤兄弟や犬養の姿を通して、人の意見に同調するよりも自分の考えを信じて行動することが大切だとわかる物語です。

 それをよく物語っているセリフがこちら:

「でたらめでもいいから、自分の考えを信じて、対決していけば」
「そうすりゃ、世界が変わる。」

 私たちはどうしても他人の意見に同調してしまいがちですが、そうすることで責任逃れをしているのかもしれませんね。

 とにかく、『魔王』は自分の考えを信じる大切さを教えてくれる小説です。気になった方は、ぜひ読んでみてください。

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