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 考える力がないと強い言葉を使う人たちに騙されてしまう。そんなテーマを描いた小説が伊坂幸太郎さんの『魔王』です。

 最後まで読み切ってもストーリーはよくわかりませんが、登場人物たちのセリフに、いろいろ考えさせられる物語なんですよね。

 魔王とは強い言葉で他人を操ろうとする人のこと?

 タイトルにもなっている『魔王』。読み始めたときは、犬養というムッソリーニに似た発言を繰り返す政治家がそうだと思っていました。

 犬養はとにかく強い言葉を使います。たとえば、

「政治を任せてくれれば、五年で景気を回復させてみせる。五年で、老後の生活も保障しよう」
「五年だ。もしできなかったら、私の首をはねればいい」

 これといった中身のある言葉ではありませんが、何となく新しいことをしてくれそうな予感がしますよね。だからこそ、私たちはこういった言葉に騙されやすいのです。

 実際、郵政民営化を推進した元首相や大阪都構想の是非を問うた元弁護士、天皇陛下に直訴した元芸能人政治家たちも強くて中身のない言葉を使っていました。

 そのため、彼らのような言葉を巧みに使う人たちのことを魔王と言っているのだと思っていたのですが…。

 魔王とは統一された民衆のこと

 違いました。彼らの言葉を鵜呑みにして、統一された行動をする人たちのことを魔王と言っているのです。

 たとえば、北朝鮮の人たちの行動って気持ち悪いですよね。書記長の命令に従いロボットのように動いています。

 もちろん、先ほどの政治家を盲信する人たちや、特定の人物の発言を鵜呑みにする人たちも同じです。

 たとえば、常に差別的な発言を繰り返して世間を賑わせている作家がいますよね。彼のフォロワーがまさにそうです。作家のどんな発言に対しても、何も考えずに賛同しています。

 このような人たちで世界が溢れたら、差別やいじめ、対立がなくなることなんてありません。そればかりか、世界は悪くなる一方です。

 「考えろ、考えろ、マクガイバー」

 だからこそ、魔王の仲間入りをしないためにも、自分のアタマで考える必要があります。そして、考えた後は行動を起こすこと。

「でたらめでもいいから、自分の考えを信じて、対決していけば」「そうすりゃ、世界が変わる。」

 他人の意見よりも自分の考えを大切にしようと思えるセリフですよね。このようなセリフが散りばめられている小説が伊坂幸太郎さんの『魔王』です。

 ストーリーは最後までよくわかりませんが、登場人物のセリフが心に残る小説です。

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