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 私たちが住む世界には「理不尽」があふれている。たとえば、リストラがそう。どれだけ会社のために尽くして働いてきたとしても、対象に選ばれた社員は、結局、退職するしかない。何をどう訴えてもだ。もし仮に必死になって訴えた結果、会社に残ることができたとしても、嫌がらせを受けることになる。そうまでして会社に残る意味はあるのだろうか。

 15世紀頃からヨーロッパで広まった「魔女狩り」も、根本的にはリストラと同じ。中世では医学も未発達であったため、出産の際に赤ん坊が死亡するケースが少なくなかった。その際に、取り上げた人物、すなわち産婆や助産師たちに責任があると考えられることが多かったようだ。「産婆は魔女だ。だから、赤ん坊を食べてしまった!」といった「はちゃめちゃな理由」によって、非難され、結果、罰せられたのだという。

 魔女かどうかを見極めるためのガイドブック『魔女への鉄槌』も出版された。そのガイドブックによると、人間を水に沈めれば魔女かどうかがわかるという。沈めたあとに浮かんでくれば魔女だというのである。だから、魔女と疑われた人たちは水に沈められたのだが、魔女でないことを証明するには、浮かんではいけない。ようするに、死なない限り無実が証明できないわけだ。

 こうして、魔女と疑われた人たちは魔女であることを白状するまで拷問された。拷問に耐え切れずに「魔女です」といえば処刑されるし、最後まで認めなかったとしても、拷問で死ぬ。耐え切れずに自殺をしたところで、「魔女は自殺を選ぶものだ」といわれておしまい。そう、この世界は理不尽であふれているのである。

 小説『火星に住むつもりかい?』でも、魔女狩りよろしく理不尽な世界が描かれている。平和警察という名ばかりの公的機関が、町中にカメラを取り付けて人々を監視し、危険人物だと判断した人たちを見せしめのために拷問、そして公開処刑する。そんな世界だ。もちろん、処刑された人たちのなかに、罪を犯した人などほとんどいない。犯罪が起きないようにするために犯罪をでっちあげ、恐怖によって犯罪を減らそうとする矛盾した社会。まるで核抑止論のように――。

 もちろん、平和警察のやり方に憤りを感じ、世の中を正そうと考える人たちも大勢いる。しかし、実際に行動を起こす人は少ない。なぜなら、自分が巻き添えを食らうのはイヤだからだ。さらに残念なことに、行動を起こさない人たちの多くは自分を正当化するために、本気で世の中を正そうとしている人たちを批判する。「ヒーローといえども、目につく不幸な人間を全員救えるわけじゃない。結局、偽善者じゃないか」――と。

 ペットボトルのリサイクルをしている人たちを「偽善者」だと決めつけるのも同じ理由だろう。ペットボトルをリサイクルするには、あたらしく作るよりも4倍の石油が必要になる。資源の節約どころか浪費になってしまう。だから、ペットボトルのリサイクルをしている人たちを「偽善者だ」と批判するのである。

 ところが、こうした批判をする人に限って、何もしていない。たとえ、瓶のリサイクルには意味があることを知っていたとしても、ガラス瓶をリサイクルしようとは思わない。結局、「良さそうなこと」をしている人たちが鬱陶しいのだ。自分が行動したくない理由を正当化するために、他人を罵っているにすぎない。

 では、こうした他人を批判する人たちが世の中に溢れたらどうなってしまうのか。平和警察や魔女狩り、リストラがまかり通る世の中、つまり理不尽な世の中になってしまう。だからこそ、私たちは他人を批判するよりも、行動を起こさなければいけない。何が正しいか、間違っているかを自分のアタマで考え、判断し、その判断に基づき行動していく必要がある。

 もし、「他人を批判する」よりも「自分が正しいと信じる道を突き進んでいく人たち」が世の中に溢れるようになったら――ヒーローが偽善者と罵られることもなくなるだろう。小説『火星に住むつもりかい?』は、私たちにそんなことを教えてくれる。

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