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(※『火星に住むつもりかい?』表紙より)


 伊坂幸太郎さんの小説『火星に住むつもりかい?』。タイトルの気軽さとは裏腹にかなりダークな物語です。テーマも「魔女狩りが現代で再現したら?」なので重いのですが、登場人物たちの軽快なセリフのおかげで楽しく読めました。

 今回は『火星に住むつもりかい?』の感想とおすすめポイントを紹介します。

 『火星に住むつもりかい?』のあらすじ

 中世の魔女狩りが現代で再現!?

 ある人物が死亡したことをきっかけに、平和警察という名の怖ろしい組織が誕生します。彼らは、無実の人たちを次々と拷問し、公開処刑に。さらに、一般市民も彼らに加担。互いに監視し合い、密告する――そんな怖ろしい社会が出来上がります。

 そんな中、平和警察にひとりで立ち向かう男が現れます。彼は一体何者!?

 怖ろしすぎる平和警察

 「趣味は拷問です!」と答えそうな人間ばかりを集めたのが平和警察です。そのため、善良な人でも「悪いことを企んでいました…」と答えざるを得ない拷問メニューが多数用意されています。

 たとえば、ターゲットとなる人物を小さな部屋に閉じ込め、エアコンの温度を極端に下げて放置する、子どもに硫酸をかけるぞと脅す、3分以上鉄棒にぶら下がることができれば解放すると言って出来もしないことに必死になっている姿を楽しむ…など、本当に極悪。

 こうして多くの善良な人たちが自白を強要され、無実の罪で公開処刑されます。読んでいて怒りが湧き上がってきますが、中世の魔女狩りではこのような理不尽が現実としてまかり通っていたのだとか。

 人間の残酷な部分を目の当たりにさせられます。

 登場人物たちの軽快なセリフで和やかに

 このように怖ろしい物語でもある『火星に住むつもりかい?』ですが、ユーモア溢れるセリフが随所に散りばめられています。

 たとえば、タイトルもそのひとつ。

田原さんがどう考えようと、今のこの社会を生きていくしかないよね。ルールを守って、正しく。気に入らないなら、国を出ればいい。ただ、どの国もこの社会の延長線上にある。日本より医療が発達していない国もある。薬もなければ、エアコンもない。マラリアに怯えてばかりの国だってある。この国より幸せだと言えるのかな。それとも、いっそうのこと火星にでも住むつもり?

 他にも:

「出し忘れたゴミは、別のゴミの日にどさくさに紛れて捨ててしまえばいいんです。平和警察のよくやる手じゃないですか。拷問で誤まって殺してしまった人物は、それらしい事故や災害の死体に紛れ込ませる。死体を保管しておくための、大型の冷凍室があるとかないとか」

 さらに、もうひとつ:

「『ヒーローは、目につく不幸な人間を、全員、救わなくちゃいけないのか』って問題です」
(中略)
「あっちの人は助けるけれど、こっちの人は見捨てる、とはなかなか割り切れないものですから。いや、もちろん割り切れる人間も多いですが、そういった人間はそもそも、人を助けようとはしないタイプです。とにかく、人を無償で助けようなんて人間はお人好しですから、悩むわけで。Aさんは助けて、Bさんは助けなくていいのか? かといって、みなを助けることはできないぞ、と。僕からすると無意味な悩み事にしか思えませんが、悩む人は悩むんですよ。いい人ほど苦労する世の中ですからね。そういう意味では、薬師寺さんや僕らは苦労知らずですね」

 このようなユーモアあふれるセリフのおかげで怖ろしい物語が和やかに。読みながらにやけてしまうこと間違いなし!?

 平和警察にひとりで立ち向かう謎だらけのヒーロー

 この物語の最大の謎は、平和警察にひとりで立ち向かうヒーローの存在です。

 「平和警察に立ち向かうヒーローは誰なのか?」「何のために闘っているのか?」「なぜ、ひとりで平和警察と互角以上に闘えるのか?」など、多くの謎が盛りだくさん。

 最後には全て回収されるので読み終えたときにはスッキリする小説です。

 最後に

 『火星に住むつもりかい?』は、ダークな物語を登場人物たちの軽快なセリフで読みやすくし、ちりばめられた謎の答えが知りたくて一気読みしてしまう小説です。興味がある方は、ぜひ読んでみてください。

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