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 「私は八方美人で人生をしくじった」とは、小林麻耶さんの言葉。彼女はテレビ番組『しくじり先生』で、女子アナ時代の苦労を赤裸々に語った。

 小林さんは、子どもの頃から転校を繰り返していたので、ごく自然に八方美人になっていったという。すでに出来上がっている「友達の輪」の中に入り込む必要があったからだ。さらに、男性にモテたことがキッカケで、女性たちから嫌われるようになる。そこで、彼女は「誰からも好かれるようになりたい」――そう思って誰にでも愛想を振りまくようになっていった。

 大学生になった小林さんは、スカウトされてテレビ番組『恋のからさわぎ』に出演する。そこで、明石屋さんまさんに「ぶりっ子」といじられて一躍有名に。その後、アナウンサーとしてTBSに入社するも、「ぶりっ子キャラ」が先行して、ニュースを読ませてもらえなかったそうだ。それでも、TBSで活躍したいと考えた彼女は、相手や番組にあわせてキャラクターを演じ分けるようになっていった。

 その結果、小林さんは「自分」というものがわからなくなってしまったという。自分が何を考え、何を求めているのかさえわからなくなったそうだ。こうして、身も心も疲れ果てた彼女は、TBSを辞める決断を下す。その後も、いろいろな出来事があった彼女だが、最近になってようやく「自分らしさ」が出せるようになったそうだ。そのひとつがこれ:

 こうして、小林麻耶さんは「自分らしさ」が大切であることを学んだわけだが、これはなにも彼女に限った話ではない。誰にでも「自分らしさ」をないがしろにしてしまう可能性はある。小説『小太郎の左腕』の主人公・林半右衛門もそのひとりだ。

 半右衛門は戸沢家を代表する武将で、隣国にある児玉家の名将・花房喜兵衛と互角の戦いを繰り広げるほどの豪傑だった。そんな半右衛門は、三十老という養育係に育てられたのだが、三十老の立てた教育方針はたった一つだった。それは「卑怯な振る舞いをするな」というごく常識的なことだけ。その他は、いかなる失敗をしても半右衛門を叱らなかった。そればかりか、失敗の原因を探り当てては、むしろそれを褒め上げ、「それでこそ備前守様の御胤」と、半右衛門が自らの才に疑問を持つ余地を残さなかった。

 自信を持った者の働きには躊躇がない。元服した半右衛門は臆することなく初陣で槍を振るい、目立つ武功を立てた。三十郎はそんな半右衛門を褒め上げ、さらに半右衛門は自らの才への自信を強固にして一層の武功を立て、それを三十郎は口を極めて褒め、今となっては半右衛門は、他国にまで響いた武辺者に成長したのである。

 そんな半右衛門の下にある人物があらわれる。小太郎だ。彼は11歳という若さだったが、神憑った鉄砲の腕前をもっていた。半右衛門はその才能を戸沢家のために使ってほしいと願うようになる。しかし、小太郎もその祖父も平和に普通の暮らしをしたいと願っていた。そこで――、半右衛門はある暴挙にでる。

 小太郎の祖父を殺し、その下手人を児玉家に擦り付けたのだ。こうして半右衛門は、小太郎を怒らせ、戸沢家に引き入れることに成功する。

 しかし、これより先、半右衛門は名将としての輝きを失ってしまった。なぜか。それは「卑怯な振る舞いをするな」という三十老の立てた唯一の教育方針を破ったからだ。半右衛門の自信は、「卑怯な振る舞いをするな」という子どもじみた戒めを今になっても大真面目に堅持し続けることによって生まれていた。だが、半右衛門は、小太郎の祖父を殺し、小太郎に偽りを述べ、戦場へと連れ出した。半右衛門はこのことに耐えられる男ではなかったのだ。つまり、「自分らしさ」を失ってしまったのである。

 このことに気づいた半右衛門は、ある行動にでる。それは、小太郎に本当の仇討ちをさせることだ。自らの命を小太郎の手によって断たせようというのである。そうすることで、半右衛門は本当の自分を取り戻した。つまり、自分らしく生きぬくことができたのである。

 この物語から、私たちは「自分らしさ」を大切にしなければ、生きることがつらくなってしまうことがわかる。どれだけ他人に批判されようとも、自分らしさを貫くことが大切だとわかる。

 とはいえ、他人に批判されるのはつらいことだ。そこで、小林麻耶さんは私たちに次の言葉を贈っている。「自分のことを嫌う人ばかり意識するのはやめよう。自分のことを好きな人に目を向けよう」――そうすれば、私たちはもっと自分らしく生きられる。人生が楽しくなる。すなわち、「自分らしさ」とは半右衛門のように命をかけるほど大切なものなのである。

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