webstation plus

couple_02

 「有名企業に就職しても安心できない時代に突入した」という人たちが増えている。かつて日本が誇っていた「終身雇用制度」が終わりを迎え、いまや有名企業に就職したからといって一生安泰とはいえなくなったからだ。実際、シャープや東芝、ソニーといった巨大企業でさえリストラを断行している。

 とはいえ、「就活で選ばれるのは企業にとって使いやすい人間だけだ」とか、「短い時間の面接でいったい何がわかるんだ」とか、「そもそも企業に選ばれる必要なんてない」といった発言を聞くと首を傾げたくなる。なぜなら、私たちは企業だけでなく、いつも誰かに選ばれながら生きているからだ。

 たとえば、恋愛もそのひとつだろう。どれだけ相手に好意をもったとしても、相手から選ばれなければ恋愛は成立しない。

 だから、私たちが考えるべきことは、「就活や恋愛のあり方に文句をつける方法」ではなく、「どうすれば相手から選ばれる自分になれるのか」、すなわち「魅力的な自分になれるのか」だ。

 小説『大金星』の主人公・御手洗くんも魅力がない――学歴も、お金も、かっこよさも、これといった特技もない、どこにでもいそうな大学生だった。彼はこれまでの人生で女性とまともに話した経験さえなかった。もちろん、モテたことなどない。それなのに、彼は自ら行動を起こそうとはせず、ゲーム三昧の毎日を過ごしていた。なぜか。

 女性に声をかけて、笑われたり、バカにされたりして、プライドが傷つくことを怖れていたからだ。しかも残念なことに、彼はいつか美人の女性から声をかけられて付き合うことになると本気で信じていたのである。

 そんな御手洗くんの前に、西郷隆盛を彷彿させる男があらわれる。春男だ。春男は御手洗くんよりもさらに魅力がない人間だったが、なぜか「女性にだけは自信がある」と言い張る。実際、春男が女性たちに声をかけると、彼女たちは立ち止まって春男の話に耳を傾けた。さらに、彼女たちは春男と話すことで笑顔になったのだ。御手洗くんにとって、これは衝撃の事実だった。「自分よりもブサイクな春男がなぜ?」そんな疑問が沸きあがってきた。

 ではなぜ、春男は初対面の女性を立ち止まらせ、笑顔にさせることができたのだろうか。結論からいえば、「何があっても女性と仲良くなりたい」という強い意志があったからだ。他人にバカにされようが、笑われようが、プライドを傷つけられようが、「女性と仲良くなりたい」という一心で行動していたからだ。

 実際、春男はプライドをかなぐり捨てて女性と接していた。誰がみても恥かしくなるような行為――Tシャツに手書きで漢字を書いてボケてみたり、しょうゆ挿しのコスプレをして笑わせようとしたりしていた。そうまでしても「女性と仲良くなりたい」という強い意志があったからこそ、何の後ろ盾もない春男に女性たちは心を動かされたのだろう。

 さて、この物語からわかることは、「強い意志」さえあれば、現状はいくらでも変えていけるということだ。もちろん、強い意志をもたなくても多くの人に選ばれる人もいるだろう。しかし、その人たちをどれだけ羨んでも現実は何も変わらない。だからこそ、私たちは自分で変えられるもの、すなわち「強い意志」をもって行動していく必要がある。

 就活でも、恋愛でも、ブログでも――私たちはいつも誰かに選ばれながら生きている。もし、それらで望んでいる結果を得たいのなら、テンパろうが、バカにされようが、プライドを傷つけられようが、強い意志をもって春男のように行動していこう。そうすれば、今よりもずっと素晴らしい未来が切り開けるはずだ。

 関連記事

『食堂のおばちゃん』は今すぐ食堂に通いたくなる心温まる小説

(※『食堂のおばちゃん』表紙より)  食堂に勤めた経験がある著者・山口恵以子さんが描いた本作品。読めば心が温まるだけでなく、今すぐ食堂で美味しいご飯が食べたくなること間違いなしの小説です。  今回は小説『食堂のおばちゃん …

『アイネクライネナハトムジーク』はクスッと笑える恋愛小説

(※『アイネクライネナハトムジーク』表紙より)  伊坂幸太郎さんの小説『アイネクライネナハトムジーク』。「あとがき」にも書かれているように、伊坂さんにしては珍しく、泥棒や強盗、殺し屋や超能力、恐ろしい犯人、特徴的な人物や …

家族とは何か/森見登美彦『有頂天家族』

 「家族」ってなんだろう。血がつながった人たちの集まりのことだろうか。それとも、一緒に暮らしている人たちのことだろうか。あるいは、愛し合っている人たちの集まりのことだろうか。  たぶん、どれも正しくて、どれも間違っている …

「退屈」こそが人生を切り開く/冲方丁『天地明察』

 好きでもない仕事に「のめり込む」のはリスクが高い。なぜなら、自分のミッションに気付く前に、目の前にある仕事に満足してしまう可能性があるからだ。もし、目の前にある仕事がどうしても好きになれないのなら――その仕事に打ち込む …

『首折り男のための協奏曲』は理不尽に立ち向かう勇気をくれる短編小説

(※『首折り男のための協奏曲』表紙より)  伊坂幸太郎さんの小説『首折り男のための協奏曲』。様々なジャンルの7つの短編で構成されていますが、多くの物語に共通しているテーマが「理不尽」です。  本当に理不尽な出来事ってあり …

言葉には力がある/原田マハ『本日は、お日柄もよく』

 言葉には力がある。たとえば、2008年のアメリカ合衆国大統領選挙で、バラク・オバマ氏が民主党の候補者に選ばれたのは、「言葉の力」を用いたからだ。  当時、「次の大統領候補に」という呼び声が最も高かったのは、資金力と知名 …

今の日本人には「武士道」が足りない/浅田次郎『黒書院の六兵衛』

 私たち日本人は「武士道」を失ってしまったのかもしれない。武士道とは、簡単にいえば「臆病者」「卑怯者」ではない生き方を貫くことだ。しかし、今の私たちは、たとえ「臆病者」「卑怯者」と罵られても、お金を生み出し、有名になりさ …

ほんの少し浮気に寛容になれる小説/『バイバイブラックバード』

 浮気をしている芸能人の報道をよく見かけるようになりました。ベッキーや乙武さん、矢口真里さんなどなど。  彼らは浮気の報道をされたあとも、何事もなかったかのようにテレビに出演されていますよね。ほんとスゴイです。私なら恥ず …

辞める勇気をくれる小説『ちょっと今から仕事やめてくる』

 昨年、電通の新入社員が過労自殺した事件が話題になりましたよね。この事件をキッカケに電通のブラック企業っぷりが次々と明かされていますが、この事件に限らず、仕事が原因で自殺をする人が後を絶ちません。  では、なぜ彼らは自殺 …

人間に与えられた「特権」を使わないなんて損!/百田尚樹『風の中のマリア』

 私たち人間には、他の生物にはない特権が与えられている。それは「目標がもてる」ということだ。  人間は、目標を追い求める動物である。目標へ到達しようと努力することによってのみ、人生が意味あるものとなる。 (アリストテレス …