webstation plus

 私たちは何かを信じて生きていますよね。

 しかし、その信じているものが間違っているとしたら…。その結末は恐ろしいものになるかもしれません。

 シェイクスピアの小説『リア王』を読めば、間違ったものを信じる恐ろしさに衝撃を受けますよ。

 甘い言葉に惑わされた主人公・リア王の物語

 物語の主人公はブリテン国の国王・リア王。彼は、年老いてきたので三人の娘に王国を譲り、政の煩わしさから解放されたいと考えていました。

 そこで、領地を三分割し、娘たちに平等に分け与えようとしますが…。

 突如、リア王はこんなことを思いつきました。娘たちがどれだけ自分のことを愛しているかで、分け与える領地の大きさを決めることにしたのです。

 そのことを知った娘たちの対応は、大きく分かれました。

 長女ゴネリルと次女リーガンは、言葉の限りを尽くしてリア王に「愛している」ことを伝えます。

 しかし、三女コーディリアは姉たちのような見え透いた嘘を言いませんでした。心から父のことを大切に想っていたからです。

 だからこそ、コーディリアは、

お父様。お父様は私を生み、育て、かわいがってくださいました。その御恩にたいしては、私も当然の義務として、お父様に従い、愛し、敬います。お姉様たち、もしすべての愛をお父様に捧げるとおっしゃるのなら、なぜ夫など持たれたのか。私なら、もしいったん嫁いだ上は、愛情も心遣いも日々の務めも、その半分は、夫に捧げるのが当然と考えましょうに。

 と自分の思いを伝えますが、この言葉を聞いたリア王はコーディリアを勘当しました。「父は、娘から誰よりも愛される存在でなければいけない」という傲慢な思いを持っていたからです。

 こうしてリア王は長女と次女に王国を譲ることにしますが、これが悲劇の始まりでした。王国を譲り受けた途端、長女と次女がリア王を邪魔者扱いするようになったからです。

 さらに、長女と次女はリア王を王国からから追い出します。

 リア王は、彼女たちの裏切りに対する怒りと、コーディリアに対する仕打ちへの後悔から、次第に狂い始めていきました。

 そして、ついに狂人へと様変わりしてしまうのです。信じるもの、信じる相手を間違えた結果だと言えるでしょう。

 リア王の家臣もリア王と同じ過ちを犯す

 リア王の家臣であるグロスター伯も信じるもの、信じる相手を間違えたひとり。

 彼には二人の息子がいました。長男エドガーと次男エドマンドです。

 しかし、グロスター伯は二人の息子を平等に扱いませんでした。次男エドマンドが浮気相手との間に出来た子供だったからです。エドマンドは跡継ぎの候補から外されていました。

 ところが、エドマンドは自分の野望を実現するためには手段を選ばない人間だったのです。

 彼は、長男エドガーが財産を狙っているとグロスター伯にほのめかします。

 もちろん最初は信じられない様子のグロスター伯でしたが、度重なるエドガーの策にのせられ、ついにはエドガーを追放してしまいました。

 では、その後どうなったのかというと、グロスター伯は、リア王と同じようにエドマンドによって追放されました。しかも両目を奪われて…。

 信じるものを間違えると恐ろしい結末が待っている

 この物語からわかることは、信じるもの、信じる相手を間違えれば、どれだけ全うに生きたとしても、リア王やグロスター伯のように、その末路は悲惨なものになるということです。

 では、現代に生きる私たちはどうでしょうか。

 「お金があれば幸せになれる」「学歴や権力があれば幸せになれる」といった幻想を追い求めていないでしょうか。

 もしくは、このような甘い言葉を吹き込む人間を信じていないでしょうか。

 もし、そうだとしたら、リア王やグロスター伯のように悲しい結末を迎えることになるかもしれませんよ。

 関連記事

伊坂幸太郎『オー!ファーザー』/父親の役割ってなに?

 結婚して子どもが生まれると「やるべきこと」が驚くほど増えますよね。  仕事をするのは当たり前として、子どもと遊んだり、勉強を教えたり、買い物に行ったりと、子どもと共に行動する日々が続きます。  これで本当に子育てができ …

深緑野分『ベルリンは晴れているか』感想/戦争で得する人なんていない

 戦争の物語を読むのはツライですよね。  もちろん、今回紹介する小説『ベルリンは晴れているか』も残酷なシーンが多く、読むのがツラくなりますが、読み終わってみると、ツラさよりも「戦争って誰が得するんだろう」という思いが強く …

有川浩『図書館危機』/日本でも表現の自由が規制されている

 日本では「表現の自由がある」と思っていましたが、実は規制されているようです。  中国などの共産圏と違って自由があると思っていただけにショックでしたが、不必要な規制は無くしていくべきですよね。  有川浩さんの『図書館危機 …

浅田次郎『黒書院の六兵衛』感想/意志の力が世界を動かす

 私たちは誰もがまわりの影響を色濃く受けていますよね。  たとえば、今勤めている会社が大規模なリストラを断行するなんて噂が流れたら、誰もがじっとしていないでしょう。転職先を探したり、リストラ対象に自分が入っていないか確認 …

厳しい現実に立ち向かうには哲学とユーモアが必要/伊坂幸太郎『アヒルと鴨のコインロッカー』感想

 アパートに引っ越してきた大学生が隣の住人から「一緒に本屋を襲わないか?」と誘われて始まる物語。そんな意味不明な幕開けをする小説が伊坂幸太郎さんの『アヒルと鴨のコインロッカー』です。  物語全体もかなり現実離れしています …

東野圭吾『予知夢』は科学談義が面白いミステリー小説

(※『予知夢』表紙より)  東野圭吾さんの小説『予知夢』。  警視庁捜査一課の草薙俊平が、帝都大学理工学部の准教授・湯川学とともに科学的な視点で事件を解決していくミステリー小説です。前回紹介した『探偵ガリレオ』の続編。今 …

伊坂幸太郎『死神の浮力』/サイコパスと闘えるのはサイコパスだけ?

 サイコパスっていますよね。彼らは良心を持たないので、好き放題に振舞っています。  たとえば、多くの人を殺したにも関わらず少年法に守られて今も平然と暮らしている殺人鬼。彼は成人してからも被害者家族を侮辱するような本を出し …

垣谷美雨『うちの子が結婚しないので』感想/本当に結婚しなくても大丈夫?

 「結婚なんて古いシステムに縛られる必要はない!」という議論が盛んですよね。  しかし、本当にそうなのでしょうか。人によっては結婚した方がいい人もいるように思います。  それにも関わらず、あまり未来を想像せずに、他人から …

本当の恋をしていますか?知念実希人『崩れる脳を抱きしめて』は心揺さぶられる恋愛ミステリー小説

(※『崩れる脳を抱きしめて』表紙より)  知念実希人さんの小説『崩れる脳を抱きしめて』。  研修医の碓氷蒼馬(うすい そうま)が、脳に爆弾を抱える弓狩環(ゆがり たまき)と出会い、恋に落ち、そして彼女の死の謎に迫る恋愛ミ …

『子育てはもう卒業します』は自分らしく生きようと思える小説

(※『子育てはもう卒業します』表紙より)  垣谷美雨さんの小説『子育てはもう卒業します』。  3人の女性の青春時代から中年になるまでの人生を描いた小説です。読めば「子ども優先で生きるのはやめ、自分らしく生きよう」と思うこ …