webstation plus

(※『i(アイ)』表紙より)


 人の気持ちに寄り添っていますか。

 私は歳をとるにつれて、自分のことばかり考えるようになりました。東日本大震災の報道を見ても、どこか他人事です。

 そんな私に人の気持ちに寄り添う大切さを思い出させてくれたのが、西加奈子さんの小説『i(アイ)』。

 今回は『i(アイ)』のあらすじとおすすめポイントを紹介します。

 『i(アイ)』のあらすじ

 ワイルド曽田アイは、アメリカ人の父と日本人の母を持つ女子高生。

 彼女は血の繋がりのない裕福な両親に大切に育てられましたが、繊細で賢すぎるため、自分の境遇を恥ずかしく思っていました。

 なぜなら、世界には理不尽な生活を余儀なくされる子どもたちが大勢いるからです。

・骸骨のように痩せ細り、でもお腹だけ大きく突き出た子どもたち
・煙が立ち上るゴミ山をあさる裸足の子どもたち
・路上で固まって眠り、大人たちから金品を盗むことで生きている子どもたち

 シリア生まれの彼女は、自分もそのうちの一人だったかもしれない…と思うと、贅沢な暮らしをしている自分が恥ずかしくて仕方ありませんでした。

 そんな彼女が同性愛者のミナや歳上の男性ユウとの出会いを通して自分の存在意義を追い求める物語です。

 『i(アイ)』のおすすめポイント

1. アイの悩む姿に心打たれる!?

 アイは、震災やテロが起こるたびに「なぜ、自分が被害者じゃなかったんだろう?」と思い悩んでいました。恵まれているという想いから抜け出せず、羞恥心と罪悪感でいっぱいになりました。

 では、なぜ彼女はそう思うようになったのでしょうか。

 それは、彼女がたまたま裕福な家庭の養子になったからです。自分が選ばれなければ、他の誰かが裕福になれた――そう思い悩んでいたのです。

 一方で、アイは養子であることに不安を感じていました。本当の子どもができたら追い出されるのではないかと心配していたのですね。

 だから彼女は何も求めなくなります。両親に心配をかけることのないグッドガールであろうとしたのです。

 とはいえ、彼女は自分の不安よりも、他人の気持ちに想いを馳せる女性。誰かが苦しんだり、不幸になったりするたびに、見知らぬ誰かのために心を痛めていました。

 そんな愛情あふれる彼女の姿に胸が熱くなったり、心が苦しくなったりする物語です。

2. アイのすべてを受けとめる親友・ミナとカメラマンのユウに感動

 そんなアイの暮らしはとても孤独なものでした。他人の不幸に想いを馳せ、裕福な自分を消し去ろうとしていたからです。

 そこに現れたのがミナという同級生。アイとは対照的に活発で自信溢れる女性でしたが、アイとはすぐに仲良くなりました。

 ミナは同性愛者で、マイノリティであることを悩んでいました。しかし、そんな不安を表には出さず、まるでもうひとりの自分のようにアイを大切にします。

 さらに、デモ集会で出会った歳上の男性・ユウとの出会いがアイの人生を大きく変えます。すべてを包み込んでくれるユウに惹かれ、アイは出会ってすぐに彼と結婚しました。

 こうして自分の居場所を見つけたアイでしたが、ある出来事がきっかけで、彼女は再び自分の存在意義がわからなくなります。そのとき、ミナとユウは――。

 アイの気持ちに寄り添おうとする彼らの優しさにグッときます。

3. アイとミナがたどり着いた結論とは?

 物語の終盤で、彼女たちはある結論に辿り着きます。その結論は私たちが生きていく上で最も大切なことであり、人を愛するという気持ちそのものでした。

 ぜひ、実際に読んで彼女たちが出した結論に涙してください。

 最後に

 西加奈子さんの小説『i(アイ)』。読めば「もっと人の気持ちに寄り添おう」と思える物語です。

 気になった方は、ぜひ読んでみてください。

 こちらのエントリでも紹介しています。

 関連記事

人の心も科学!?東野圭吾『ガリレオの苦悩』は心に響く言葉が満載の小説

(※『ガリレオの苦悩』表紙より)  東野圭吾さんの小説『ガリレオの苦悩』。  今作から新たに加わった女性刑事・内海薫の登場により物語の幅が広がったミステリー小説です。読めば湯川准教授の言葉が心に響くこと間違いなし!?   …

『みかづき』は塾教育の歴史が楽しみながら学べる小説

(※『みかづき』表紙より)  森絵都さんの小説『みかづき』。  小学校の用務員として働く大島吾郎が、新たに塾を立ち上げようと考える赤坂千秋と出会い、塾講師として、経営者として奮闘する物語です。読めば塾教育の歴史が楽しみな …

仕返しするのはダメ?伊坂幸太郎『サブマリン』は少年犯罪について考えたくなる小説

(※『サブマリン』表紙より)  伊坂幸太郎さんの小説『サブマリン』。  以前、紹介した『チルドレン』の続編で、家裁調査官の陣内と武藤が無免許運転で人を轢き殺した少年の謎に迫る物語です。読めば、少年犯罪についてあれこれ考え …

犯人は誰!?米澤穂信『愚者のエンドロール』は探偵がいないミステリー小説

(※『愚者のエンドロール』表紙より)  米澤穂信さんの小説『愚者のエンドロール』。  前作『氷菓』に続く古典部シリーズ第2弾の本作は、2年F組の先輩たちが自主制作したミステリー映画の謎に迫る物語です。読めば驚きの結末が! …

犯人は鉄壁!?東野圭吾『聖女の救済』は聖女が隠し持つ決意に驚愕する小説

(※『聖女の救済』表紙より)  東野圭吾さんの小説『聖女の救済』。  子どもができないという理由で離婚を告げられた女性が完全犯罪を成し遂げようとする物語です。読めば聖女の胸に秘められた決意に驚愕すること間違いなし!?   …

『ふくわらい』は幼い頃に感情を失った女性を描いた小説

(※『ふくわらい』表紙より)  西加奈子さんの小説『ふくわらい』。  この前のエントリで紹介した『コンビニ人間』の主人公とよく似た女性――他人の感情や言動が理解できない女性が、他人との関わりを通じて感情を取り戻していく過 …

本当の恋をしていますか?知念実希人『崩れる脳を抱きしめて』は心揺さぶられる恋愛ミステリー小説

(※『崩れる脳を抱きしめて』表紙より)  知念実希人さんの小説『崩れる脳を抱きしめて』。  研修医の碓氷蒼馬(うすい そうま)が、脳に爆弾を抱える弓狩環(ゆがり たまき)と出会い、恋に落ち、そして彼女の死の謎に迫る恋愛ミ …

どんなことでも逆転できる!?阿部和重&伊坂幸太郎『キャプテンサンダーボルト』は一発逆転の物語

(※『キャプテンサンダーボルト 上』表紙より)  一発逆転したいと思ったことありませんか。  私は、仕事が予定通りに進まなかったときに思っています。特に最近は一発逆転したいことばかり…。  阿部和重さんと伊坂幸太郎さんの …

理不尽な目にあったときは流れに身を任せよう/伊坂幸太郎『グラスホッパー』

(※『グラスホッパー』表紙より)  ひどくてツライ、重くてしんどい。そんな状況に追い込まれたことありませんか? ・必死になって仕事をしても上司から怒られる ・家族から理不尽に責められる ・義理の両親からいろいろ口出しされ …

誰もが宗教に関わっている!?今村夏子『星の子』は新興宗教にハマった家族を描いた小説

(※『星の子』表紙より)  宗教は自分には関係のないものだと思っていませんか。  私は思っていました。洗脳された人が、怪しいものを買ったり、変な行動を取ったりするものだと思っていました。  しかし、今村夏子さんの小説『星 …