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(※『人質の朗読会』表紙より)


 小川洋子さんの小説『人質の朗読会』。

 地球の裏側にある村で反政府ゲリラの人質になった8名は、暇つぶしに朗読を始めますが、いつの間にか自分の過去と向き合い、真剣に朗読しあうようになりました。

 とても不思議な物語ですが、読めば心に残ること間違いなし!?

 今回は『人質の朗読会』のあらすじとおすすめポイントを紹介します。

 『人質の朗読会』のあらすじ

 地球の反対側にある村に観光に来ていた日本人8名が、反政府ゲリラの襲撃を受け拉致されます。

 犯人グループの要求は、逮捕・拘束された仲間の釈放と身代金の支払いでした。

 それからしばらくは目立った動きはありませんでしたが、事件発生から100日以上が過ぎた頃、事態は急展開します。軍と警察の特殊部隊が元猟師小屋のアジトに強行突破したのです。

 その結果、犯人グループの5名は全員射殺、特殊部隊の隊員2名が殉職、11名が負傷しました。さらに、犯人の仕掛けたダイナマイトの爆発によって人質全員が死亡します。

 残されたのは、床板に刻まれた文章と盗聴テープだけでした。

 しかし、その盗聴テープには、人質の朗読会の様子が録音されていました。彼らは一体何を朗読したのか!?

 『人質の朗読会』のおすすめポイント

1. 不思議なのに心に残る短編集

 あらすじでも紹介したように、『人質の朗読会』は、人質になった人たちがいつ死ぬかわからない状況で自分の過去と向き合いながら朗読しあう物語です。

 全9章で構成されているのですが、どれも不思議なのに心に残る物語ばかり!?

 なかでも印象的だったのが『やまびこビスケット』、『B談話室』、『冬眠中のヤマネ』。それぞれ簡単に紹介します。

『やまびこビスケット』

 高校の食物科を卒業した私は、レストランや洋菓子メーカーなどの面接を受けますが、次々と落とされました。受かったのは、しがないビスケット会社・やまびこビスケットだけ。

 やまびこビスケットでの仕事はとても単調なものでした。アルファベットの形をしたビスケットを製造するラインで、不良品を取り除く仕事です。

 しかし、私はこの仕事を気に入っていました。正しいアルファベットが何者にも乱されない確かさで行進していく姿を眺めるのが好きだったからです。

 一方、私は工場の近くにある信じられないくらい安いアパートに住み始めました。家賃が安いのは大家さんがとても変わった人だったからです。

 大家のおばあさんは、整理整頓を何よりも愛していました。少しでも普段と違う場所に物が置かれていると激しく叱ります。

 また、お金に汚く、家賃を持っていくと引ったくられるように奪われました。

 そんな嫌われ者の大家さんでしたが、大家さんが転んで怪我をしたことをきっかけに、私との関係が変わります。私は大家さんに、不良品のビスケット、面接に次々と落とされたダメな自分を重ねて見るようになったからです。

 そして最後は――。

 どんな人にでも共感できるところがあることを教えてくれる物語です。

『B談話室』

 お年寄りの外国人に「公民館のB談話室はどこですか?」と尋ねられた僕は、口で説明するよりも手っ取り早いと思い、B談話室まで案内することにしました。

 そこで、可愛い女性に手招きされた僕は、危機言語を救う友の会が行われているB談話室に足を踏み入れることに。

 危機言語を救う友の会とは、政治的な理由で使用が禁止されたり、人口が減少したりして忘れ去られようとしている世界の地域語を守るための集まりでした。

 参加者が話す危機言語を聞いていると、僕の胸にも激しく訴えかけてくるものがありました。

 それから僕は何度かB談話室に通うようになります。蜘蛛の巣愛好会、溶鉱炉を愛でる会、絶食研究組合などなど。

 その結果、僕は――。

 どれほどマイナーでも、自分の大切なことを共有できる人がいることはありがたいことだと気づかされる物語です。

『冬眠中のヤマネ』

 母は、僕が私立中学校に合格すると非常識なほどに喜びました。父が売れない眼鏡屋を営んでいたこともあり、母は僕を眼科医にしようとしていたからです。

 しかし、僕は眼科医になりたいとは思っていませんでした。興味があるのは、野球と女の子だけ。

 そんな僕の考えを変えたのが、通学途中に出会ったほとんど死にかけの老人です。

 彼は手作りと思われるぬいぐるみを売っていましたが、オオアリクイやムカデ、コウモリなど可愛くないものばかりでした。しかも、どのぬいぐるみにも左目がありません。その老人と同じように…。

 しかし、左目がないことで、僕はその老人が作ったヤマネのぬいぐるみが気になって仕方なくなります。そこでヤマネを買おうとしますが、ちょうどその場所で行われていた石段登り競争に巻き込まれることに。

 老人を背負って石段登り競争に参加した僕は――。

 老人の気持ちに胸が熱くなる物語です。

2. 非常識な人との出会いが心に残る

 これらの物語は、どれも世間では非常識と言われる人たちとの出会いが語られています。

 必要以上に整理整頓にこだわるケチな老婆や、気持ち悪いぬいぐるみを売る老人、母が出かけた隙に台所を借りにくる隣に住む娘さんなど、とても不思議な人ばかり。

 しかし、そういった非常識な人だからこそ、自分の人生を変えるきっかけになるのかもしれません。自分にはない視点で物事を見ている人たちだからです。

 私たちは自分とよく似た価値観の人とばかり接してしまいがちですが、たまには正反対の価値観を持つ人とコミュニケーションを取ることも大切なのかもしれませんね。

3. 繰り返しが運命になる

 この物語でもう一つ面白いと思ったのは、偶然がその人の人生を決めていることです。

 母親に眼科医になってほしいと言われた僕は、左目のない老人と偶然出会い眼科医を目指すようになり、飛行機のプラモデルが趣味だった夫を亡くしたおばさんは、槍投げをする青年との出会いが生きがいになり、B談話室に通っていた僕は、それがきっかけで小説家になる――。

 もちろん作られた物語なので、偶然が起こるように描かれていますが、私たちの人生も偶然で決まっているように思えるんですよね。

 ぜひ、実際に読んで不思議な世界を体験してください。

 最後に

 小川洋子さんの小説『人質の朗読会』。不思議な物語ばかりなのに、心に残ること間違いなし!?

 気になった方は、ぜひ読んでみてください。

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