現実逃避していませんか?
私は現実逃避するのが得意ではないので、すぐに悩みを解決したがりますが、
宇佐美りんさんの小説『推し、燃ゆ』を読んで、現実逃避する主人公の苦しみが伝わってきました。
それだけでなく、推しを応援したくなる気持ちが少しわかる物語でもあったんですよね。
おすすめ度:
こんな人におすすめ
- 傷つかない場所に逃げた先に何があるのか?を知りたい人
- ジャニーズやAKBを追いかけているオタクの心理がわかる物語に興味がある人
- 現実逃避し続ける主人公の物語を読んでみたい人
- 宇佐美りんさんの小説が好きな人
あらすじ:推しにすべてを捧げる女子高生の物語
物語の主人公は女子高生のあかり。
彼女は上野真幸というアイドルを推しており、人生のすべてを彼に捧げようとしていました。
授業中も推しのことばかり考え、推しのライブに行ったり、握手会に行くためにアルバイトにも励んでいました。
とはいえ、推しと付き合いたいとは思っていませんでした。
遠くから眺めているような有象無象のファンでありたいと思っていたのです。
ところが、推しがファンの女性を殴ったことで炎上します。それでも、あかりは推しを応援し続けますが…。
という物語が楽しめる小説です。
感想①:ジャニーズやAKBを追いかけているオタクの心理がわかる
あらすじでも紹介したように、あかりは推しである上野真幸のために日々を過ごしていました。
授業中もアルバイトも日々の生活も、すべてが推し中心です。
そのせいで授業に集中できなくなっても、家が散らかって手がつけられなくなっても、アルバイトでミスをしても、推しのために日々を生きていました。
推しが自分の背骨とまで言い張ります。うまくいかない日々を推しによって救われようとしていたのです。
とはいえ…。私はB‘zが大好きですが、B’zのために人生を捧げようと思ったことは一度もありません。

そのため、人生をかけてジャニーズやAKBを応援する人たちの気持ちがわかりませんでしたが、この物語を読んで、少しその気持ちが理解できました。
つらい現実から救ってくれる存在として推しがいることがよくわかる物語です。
感想②:人を判断するのは難しい
とはいえ、あかりは推しに関係しないことはすべて切り捨てていました。
推しのプロフィールを細かくノートに書いたり、写真を整理して残すことはできても、
床にポテトチップスの袋を放置したり、親に言われないと着替えもしません。
また、推しに関するブログはきっちり書けるのに、漢字は覚えられないと言って勉強を頑張ろうとはしませんでした。
学校のレポートを忘れても「できないから仕方ない」というスタンスでいつづけるんですよね。
そのせいで高校を中退することになっても、親から就職しろと言われても、「自分のことをわかってくれない」と言って、現実と向き合おうとはしませんでした。
崔実さんの小説『pray human』では、精神病棟に入っていた主人公が誰にもいえない悩みを抱えながら苦しむ姿が描かれていましたが、

この物語では、主人公のあかりが発達障害なのか、自己中心的なのかわからない振る舞いが描かれていたので、人を判断する難しさが伝わってきました。
感想③:傷つかない場所を探し求めた先にあるものは?
さて、この物語では、主人公のあかりが推しを追い求める理由を「傷つかなくてすむ場所」として描かれているように思います。
携帯やテレビ画面、あるいはステージと客席には、相手と話して近づくことのできない距離があります。
あかりが何かをすることで関係性が壊れることがない、隔たりのぶんの優しさがあります。
つまり、あかりは、自分が何か行動を起こすたびに、誰かから軽蔑されてきたということです。
実際、親や姉からは何ひとつ頑張ろうとしない人間に見え、またバイト先でもミスばかりする子だと思われていました。
だからこそ、何をしても傷つかずにいられる場所を求めていたんですよね。
伊吹有喜さんの小説『雲を紡ぐ』では、傷ついた女子高生の主人公が新たな環境で奮闘する物語が描かれていましたが、

この小説では、それとは対照的に現実逃避し続ける主人公の姿が描かれており、この先にどんな未来があるのだろう…と考えさせられました。
まとめ
今回は、宇佐美りんさんの小説『推し、燃ゆ』のあらすじと感想を紹介してきました。
推しを通して現実逃避する主人公の苦しみが伝わってくる物語なので、気になった方は、ぜひ読んでみてください。
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