暗くて闇が深い物語はお好きですか?
私はどちらかと言うと、明るい物語が好きですが、伊坂幸太郎さんの小説『重力ピエロ』は、暗くて闇が深い物語なのに最後まで楽しめました。
ラストで一筋の希望が見えたときは、涙が溢れ出そうになったんですよね。
おすすめ度:
こんな人におすすめ
- 暗くて闇が深い物語が好きな人
- 兄弟が協力して悪に立ち向かう物語に興味がある人
- 感動できる物語が好きな人
- 伊坂幸太郎さんの小説が好きな人
あらすじ:強姦されて産まれてきた子供が主人公の物語
物語の主人公は、強姦されて産まれてきた子供・春。
彼は家族には恵まれましたが、強姦魔の息子であることを気にして生きていました。
それもそのはずです。
彼は絵を描くのが上手く、幼い頃に賞をもらえることになったときも、審査員から「遺伝のおかげで絵が上手いんだね」と嫌味を言われたりしたからです。
春は、その日から得意な絵を描くことをやめました。
また、容姿が良かったので女性からモテましたが、性的なことを遠ざけて生きていました。
とはいえ、春自身も「強姦魔の息子」という事実に縛られることに意味がないことはわかっていました。
春は兄の泉水にこんなことを言います。
「フェルマーの最終定理にしろ、ラスコーの壁画にしろ、人はどんなものでも意味を見つけようとして、時間を無駄にする」
強姦魔の息子として生まれてきた意味なんてないのに、
その意味を求めて悩み苦しむ自分を客観的に「時間を無駄にしている」と言っているんですよね。
他にも、足の曲がった鳩を見た春は、
「人間はさ、いつも自分が一番大変だ、と思うんだ」
「不幸だとか、病気だとか、仕事が忙しいだとか、とにかく、自分が他の誰よりも大変な人生を送っている。そういう顔をしている。それに比べれば、あの鳩のほうが偉い。自分が一番つらいとは思っていない」
と自分を客観的に眺めようと努力していることがわかります。しかし…。
という物語が楽しめる小説です。
感想①:悲しい境遇で生まれてきた主人公
あらすじでも紹介したように、春は「強姦魔の息子」という悲しい境遇で生まれてきました。
家族はまったくそのことを気にしていませんでしたが、春自身は自分が生まれてきた理由にこだわり続けていました。
「自分が生きている意味は何なのか?」を考え続けていたんですよね。
不幸な境遇に生まれて、生きる意味を探し求める主人公の物語といえば、
原田マハさんの小説『奇跡の人 The Miracle Worker』が思い浮かびます。
「目が見えない、耳が聞こえない、口がきけない」という三重苦で生まれてきた主人公のれんが、
あん先生に出会い、生きる意味を追い求める姿が描かれています。

しかし、春はれんのような希望が見出せず、ひたすら悩み続けるので、読んでいて暗い気持ちになりました。
謎解き要素もありますが、心の闇を描いた暗い物語が好きな人におすすめの小説です。
感想②:悪い奴は簡単には反省しない
一方で、春の母を犯した強姦魔は少年法に守られて、悠々自適に暮らしていました。
とてもムカつく話ですが、これは現実でも同じですよね。
レイプ犯が捕まったニュースは多くありますが、そのほとんどが無罪です。
犯人によっては、逆に相手を名誉毀損で訴えようとする極悪人までいます。
なぜなら、彼らには罪の意識がないからです。
相手の痛みを想像する力がないのではなく、どれだけ相手が苦しんでいても、それが自分の苦しみではないことを知っているのです。
そんな極悪人を救おうとする人もいますが、被害者を苦しめるだけです。
『マリアビートル』の感想でも、「少年法は何のためにあるのか?」と書きましたが、

この物語を読んで、その必要性がますますわからなくなりました。
悪い奴らは、そう簡単には反省しないことがわかる物語です。
感想③:ラストは感動できる物語
ここまで『重力ピエロ』は暗い物語だと紹介してきましたが、ラストは感動できます。
物語を大まかに説明すると、連続放火犯を探し出そうとする泉水と春を物語の中心に置き、
彼らが成し遂げようとしていることが徐々に明らかになっていく構成をとっています。
そして、彼らの行動すべてが、父の一言に集約するように描かれているんですよね。
「おまえは俺に似て、嘘が下手だ」
この言葉を読んだとき、私は涙が溢れ出そうになりました。
父親はこうあるべきだと思ったんですよね。
他人にどう言われようと、どんな目で見られようと、自分の子供を守り抜く。
しかも、「本当に深刻なことは陽気に伝えるべきなんだよ」という信念通りに行動する父がかっこ良すぎです。
『オー!ファーザー』でも父親のかっこ良さが描かれていましたが、

伊坂幸太郎さんが描く父親に憧れてしまいます。
まとめ
今回は伊坂幸太郎さんの小説『重力ピエロ』のあらすじと感想を紹介してきました。
とても暗く闇が深い物語ですが、ラストは感動できる物語でもあるので、気になった方は、ぜひ読んでみてください。
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