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(※『重力ピエロ』表紙より)


 他人の考えに縛られていませんか?

 たとえば、「お金があれば幸せになれる」とか、「頭の良さは遺伝で決まる」とか、「どれだけ悪い人間でも罪の重さを知れば反省する」なんて思い込まされていませんか。

 しかし、このような他人の考えなんて、まったく当てにならないんですよね。

 そんな思いにさせてくれた小説が、伊坂幸太郎さんの『重力ピエロ』。今回は『重力ピエロ』のあらすじとおすすめポイントを紹介します。

 『重力ピエロ』のあらすじ

 強姦魔に犯されて生まれてきた子・春。彼は幼い頃から遺伝子の存在に悩まされていました。

 たとえば、春は小学生のときに絵を描いて表彰されますが、審査員を名乗る女性に嫌味を言われます。強姦魔の血を引いているから絵が上手く描けたんだと軽蔑を込めて言われたのです。その日から春は絵を描かなくなりました。

 その後も、春は家族の絆を求めて苦しみながら生きていきます。

 そして現在。母はすでに亡くなり、父は癌に侵されていました。兄の泉水は遺伝子情報を扱う会社に勤め、春はグラフィティアートを消す仕事をしています。

 そんなある日、春はあることに気づきます。連続放火現場の近くには、必ずグラフィティアートがあったのです。

 そこで泉水と春が犯人探しに乗り出しますが――。

 切なくて悲しくて、そしてほんの少し救われる物語です。

 『重力ピエロ』のおすすめポイント

1. 春の苦悩に共感できる

 他人の考えに縛られる必要なんてないことは頭ではわかっていた春ですが、強姦魔の息子であることを気にして生きていました。

 あらすじでも紹介したように得意な絵を描くことをやめたり、女性からモテまくっても性的なことを遠ざけたりして生きています。

 そんな春は、泉水にこんなことを言いました。

「フェルマーの最終定理にしろ、ラスコーの壁画にしろ、人はどんなものでも意味を見つけようとして、時間を無駄にする」

 つまり、強姦魔の息子として生まれてきた意味なんてないのに、その意味を求めて悩み苦しむ自分を客観的に「時間を無駄にしている」と言っているんですよね。

 他にも、足の曲がった鳩を見た春は、

「人間はさ、いつも自分が一番大変だ、と思うんだ」
「不幸だとか、病気だとか。仕事が忙しいだとか、とにかく、自分が他の誰よりも大変な人生を送っている。そういう顔をしている。それに比べれば、あの鳩のほうが偉い。自分が一番つらいとは思っていない」

 と自分を客観的に見ようと努力していることがわかります。

 こうして自分を客観的に見つめようと努力しながらも、強姦魔の息子であることを意識し、悩み苦しむ春の姿に共感できる物語です。

2. 罪を犯しても反省しない強姦魔

 春の母を犯した強姦魔は少年法に守られていました。多くの人を苦しめたにもかかわらず、今でも悠々自適に暮らしています。

 これは現実でも同じですよね。レイプ犯が捕まったニュースは多くありますが、そのほとんどが無罪であり、人によっては名誉毀損で逆に相手を訴えようとする極悪人もいます。

 なぜなら彼らに罪の意識がないから。相手の痛みを想像する力がないのではなく、どれだけ相手が苦しんでも、それが自分の苦しみではないことを知っているからです。

 そんな極悪人を救おうとする人もいますが無意味ですよね。だから泉水と春は――。

 他人の意見や法律には何の価値もないことがわかります。

3. 家族のあり方を考えさせられる

 連続放火犯を探し出そうとする泉水と春を物語の中心に置き、彼らが成し遂げようとしていることが徐々に明かされていきますが、それらすべてが彼らの父の一言に集約するように描かれています。

 その一言が、

「おまえは俺に似て、嘘が下手だ」

 この言葉を読んだとき、涙が溢れそうになりました。父親はこうあるべきだと思ったんですよね。

 他人にどんなことを言われようと、どんな目で見られようと、自分の子を守り抜く。しかも、「本当に深刻なことは陽気に伝えるべきなんだよ」という言葉通りに行動する父がかっこよすぎです。

 読めば家族のあり方について考えたくなる物語です。

 最後に

 伊坂幸太郎さんの小説『重力ピエロ』。読めば、他人の考えに縛られる必要なんてないことがわかります。

 気になった方は、ぜひ読んでみてください。

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