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(※『グラスホッパー』表紙より)


 ひどくてツライ、重くてしんどい。そんな状況に追い込まれたことありませんか?

・必死になって仕事をしても上司から怒られる
・家族から理不尽に責められる
・義理の両親からいろいろ口出しされる

 などなど。

 そんなとき、どうしても逃げ出したくなりますが、流れに身を任せてみるのも一つの方法かもしれません。伊坂幸太郎さんの小説『グラスホッパー』を読んで、そう思うようになりなした。

 そこで今回は、理不尽な目にあったときに読んで欲しい小説『グラスホッパー』のあらすじとおすすめポイントを紹介します。

 『グラスホッパー』のあらすじ

 薬物、暴力、人殺し、臓器売買など、何をしても罰せられない会社・フロライン。

 そんな怖ろしい会社のバカ息子に妻をひき殺された鈴木は、教師を辞め、復讐のためにフロラインに潜り込みました。しかし、幹部社員に見抜かれ、逆に脅されることに。

 人を自殺に追い込む仕事をしている鯨は、半年ほど前から眩暈を感じるようになりました。過去に殺した人たちが次々と現れ、話しかけてきます。

 その話を知り合いのホームレスにしたところ、「押し屋」という殺し屋と対決することを提案されます。過去に先を越された仕事の清算をしろと言うのです。鯨は押し屋に勝てるのか!?

 雇われて人殺しをしている蝉は、斡旋者の言いなりになっている自分に嫌気がさしていました。そんなとき、たまたま「押し屋」の話を耳にします。彼は押し屋を殺して名を上げようとしますが――。

 3人の想いが入り交じる物語です。

 『グラスホッパー』のおすすめポイント

1. 絶妙なポイントで視点が切り替わる

 『グラスホッパー』は、鈴木、鯨、蝉――この3人の視点を切り替えながら物語が進んでいきます。

 しかも、絶妙なタイミングで視点が切り替わるので、続きが気になって仕方ないんですよね。

 彼らにはそれぞれ成し遂げたいことがありました。鈴木は妻の復讐を、鯨は亡霊からの解放を、そして蝉は自由を求めていました。

 そんな彼らの願いを叶える鍵が「押し屋」。鈴木は家庭教師として押し屋の家に潜り込み、鯨は対決相手として、蝉は名を上げるための人物として押し屋を目指します。

 彼ら3人が辿りつく結末が気になって仕方がない物語です。

2. 理不尽な目にあっても頑張る鈴木に励まされる

 先ほども紹介したように、鈴木はフロラインのバカ息子に妻を轢き殺されました。しかも、酔っ払って。

 ところが、バカ息子は何の罪にも問われません。そこで、鈴木は自ら復讐を遂げようとフロラインに乗り込みましたが、幹部社員の比与子に疑われ、「人殺しをしろ」と逆に脅されることに。

 そんな鈴木に幸運が起こります。目の前でバカ息子が車に轢かれて死んだのです。「押し屋」がバカ息子の背中を押したからでした。

 しかし、「押し屋」の存在に気づいた比与子に押し屋を追えと命じられます。鈴木は流れに身を任せて押し屋を追うことに。

 その後も、鈴木は押し屋の家に家庭教師として乗り込んだり、子どもの遊び相手になったり、捕らえられたりと流れに身を任せます。ただし、出来る限りのことはしながら――。

 そんな鈴木の姿をみていると、理不尽な目にあったときは、流れに身を任せながら、自分に出来ることをひとつひとつやっていくことが大切なんじゃないかと思えてきました。

 鈴木の頑張りに励まされる物語です。

3. すぐに再読したくなる結末が!?

 物語の終盤に次のようなシーンがあります。

列車が通り抜けていくのを、鈴木はじっと眺めながら、「それにしてもこの列車、長くないか」と、亡き妻に向かってこっそりと言う。
回送電車は、まだ通過している。

 実はこれ。これまでの物語を根底から覆すシーンなんです。それを物語っているのが中盤での鯨とホームレスの会話。

「兆候はあるんですよ、幻覚のしるしは。例えば、街で立っている時に、目の前の信号の点滅がちっとも止まらなかったり、歩いても歩いても階段が終わらなかったり。駅にいる時も、通過する列車がいつまで経っても通り過ぎない、とか、この列車ずいぶん長いなあ、なんて思ったら、まずい兆候ですよ。そういうのは全部、幻覚の証拠です。信号や列車は、幻覚のきっかけになりやすいんです。信号はたいがい見始めの契機で、列車は目覚めの合図だったりします」

 つまり、鈴木は物語の終盤でようやく幻覚から覚めたことになります。

 では、この物語のどこまでが幻覚で、どこまでが現実だったのか…。読み終えた直後に再読したくなる小説です。

 最後に

 伊坂幸太郎さんの小説『グラスホッパー』。読めば理不尽な出来事が起こっても頑張ろうと思えること間違いなし!?

 気になった方は、ぜひ読んでみてください。

 ※殺し屋シリーズの紹介はこちら。

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