上手くいかない理由を境遇のせいにしていませんか?
私は境遇のせいにしがちですが、伊吹有喜さんの小説『彼方の友へ』を読んで、どのような境遇にもめげずに奮闘する主人公の姿に感動しました。
それだけでなく、戦時下での美しい恋物語が楽しめる小説でもあったんですよね。
おすすめ度:
こんな人におすすめ
- どのような境遇にもめげずに奮闘する主人公の物語が好きな人
- 小説を書く極意が描かれている物語に興味がある人
- 戦時下での美しい恋物語を読んでみたい人
- 伊吹有喜さんの小説が好きな人
あらすじ:憧れの雑誌社で働くことになった主人公の物語
物語の主人公は、90歳を過ぎて老人施設で暮らしている佐倉波津子。
彼女は「長寿の秘訣は?」とか、「昔のことを教えてほしい」などと興味本位で訪ねてくる人が多かったので面会を断っていましたが、
「フローラ・ゲーム」と呼ばれる懐かしい雑誌の付録を持ってきてくれた人がいたので、昔を思い出しました。
彼女は16歳のときに、マダムこと椎名三芳が開く私塾「椎名音楽学院」に内弟子として家事・手伝いをしながら通っていました。
二年前までは生徒として通っていましたが、五年前に父が失踪し、その後、母も仕立て物を夜なべして縫い続けた結果、倒れて病気になったため、働くしかなかったからです。
ところが、戦争が始まったのでマダムが家を売り払って金塊に換え、「椎名音楽学院」を閉めると言い出します。
そこで次の働き口を探していた波津子でしたが、パトロンのようなものしか見つからず、
叔父である辰也に頼ったところ、憧れの雑誌『乙女の友』編集部で雑用係として働けることになりました。
しかし、編集長の有賀は、女性ではなく男性を求めていたので…。という物語が楽しめる小説です。
感想①:望まれていなくても雑誌社で働こうと奮闘する主人公に感動
あらすじでも紹介しましたが、波津子は憧れの雑誌『乙女の友』編集部の有賀付きの雑用係として働くことになりましたが、
有賀は、女性ではなく他の出版社の少年部員みたいなシステムが欲しいと思っていました。
女性では深夜まで働かせるわけにはいかず、自転車に乗って原稿を取りに行かせるわけにもいかないと思っていたからです。
しかし、何らかの圧力がかかっており、断るわけにはいかないと社長から言われます。
一方の波津子は望まれていないとは知らず、憧れを抱いていた「乙女の友」の表紙を描いている画家・長谷川純司と詩を書く有賀憲一郎と働けることを喜んでいたんですよね。
だからこそ、他の働き口を探してやると言われても、ここで働きたいと言って男性に負けないように働き続けます。
古川智映子さんの小説『土佐堀川』では、男社会で奮闘する広岡浅子の姿が描かれていましたが、

この小説でも、男社会で奮闘する波津子に励まされる物語が描かれていました。
感想②:小説を書く極意が描かれている
先ほども紹介したように、波津子は望まれて有賀編集長の元で働くことになったわけではありませんが、
その後、少年たちのように自転車に乗って原稿を取りに行ったり、作家の空井先生の勉強会に参加したりと奮闘していきました。
その結果、空井先生が国家転覆を企む容疑で検挙されたとき、彼女の書いた小説がその埋め合わせとして雑誌に載ることになります。
もちろん、そのまま載せられるものではなく、有賀編集長の指導のもと、多くの修正が必要でしたが、彼女の書いた小説には売れると思わせる何かがありました。
これまで有賀編集長や空井先生に多くのことを教わってきたからです。
たとえば、有賀編集長は、文章で大切なことは、
文章は音楽と同じ。緩急の加減、テンポやリズムが大事なのだよ。
と言います。
また、空井先生は、小説を書くコツを、
まずは登場人物について紹介文を書いてみるとか。登場人物のことを、なんでもいいんです。声や外見、好きな色、好きな食べ物、得意なこと。思いつくことをすべて書く。それからストーリーの起承転結。これを心がける。それぐらいです。
最初は身近な人をモデルにして、夢の場所に置き換えて活躍させればよいのです。自分が行きたかったところ…宇宙じゃなくてもいい。深海でも地下でも古代でも未来でも。
と教えていました。
原田マハさんの小説『本日は、お日柄もよく』では、スピーチの極意がわかる物語が描かれていましたが、

この物語では、小説を書く極意が紹介されていたので、物語を書くという仕事に興味が持てました。
感想③:戦時下での美しい恋物語に惹き込まれる
さて、この小説では、戦時下での美しい恋物語が描かれています。
戦争中は軍部政府が力を持つようになり、逆らえば紙を提供しないなどと、圧力をかけてきました。
それだけでなく、女学生がリボンをしていたと言うだけで、若い憲兵が贅沢だと暴力を振るったり、
女性が長いものや着物をきて歩いていると、活動的ではない、虚栄にまみれていると言ってハサミで切れと迫ってくる婦人たちがいました。
そんな女性たちを励ますために、奮闘していた波津子と有賀編集長との恋物語が美しくて一気に惹き込まれたんですよね。
知念実希人さんの小説『崩れる脳を抱きしめて』では、感動できる恋物語が描かれていましたが、

この小説では美しくて切なくなる恋物語が楽しめました。
まとめ
今回は、伊吹有喜さんの小説『彼方の友へ』のあらすじと感想を紹介してきました。
どのような境遇にもめげずに前を向いて奮闘する主人公に励まされる物語なので、気になった方は、ぜひ読んでみてください。
コメント