webstation plus

(※『終末のフール』表紙より)


 今の生き方でどれくらい生きるつもりですか。

 私は今の生き方に満足していませんが、まだまだ生きられると思っていたので、今の生き方を続けてきました。しかし、いつかは誰もが死ぬんですよね。

 そんな当たり前のことに気づかせてくれた小説が伊坂幸太郎さんの『終末のフール』。

 今回は『終末のフール』のあらすじとおすすめポイントを紹介します。

 『終末のフール』のあらすじ

 3年後に小惑星が衝突して滅亡することがわかった地球。そんな地球で過ごす8人の主人公たちの終末を描いた小説です。

 それぞれ簡単に紹介すると、

『終末のフール』

 母や兄をバカにしてきた父に嫌気がさした康子が家から出て行き、久しぶりに父と再会する物語。

 誰かをバカにするのは自分の弱さを隠すためだと気づかされます。

『太陽のシール』

 子どもができないことを悩んでいた富士夫と美咲に子どもができる物語。

 3年後に死ぬことがわかっているのに子どもを産むべきか?という難問に、優柔不断な富士夫が挑みます。

『籠城のビール』

 アナウンサーの杉田玄白が、空き巣の常習犯に拉致された女性をバカにし、自殺に追い込んだので、その女性の兄たちが復讐にやってくる物語。

 自分の言葉に責任を持とうと思えます。

『冬眠のガール』

 両親が自殺をして一人になった美智が、父が残した本をすべて読み切り、恋人探しに出かける物語。

 本を読むだけではダメで、行動することの大切さを教えてくれます。

『鋼鉄のウール』

 弱いものイジメをしている先輩に注意できなかった自分が嫌で仕方なかった僕。そんな僕がキックボクシングのジムに通う物語。

 今の自分の生き方でどれくらい生きるつもりか考えさせられます。

『天体のヨール』

 愛する妻を失った私が復讐を成し遂げ、自殺をしようとしていたときに、大学時代にバカにしていた同級生から電話がかかってくる物語。

 勝ち組とか負け組という概念はいつ逆転するかわからないことに気づかされます。

『演劇のオール』

 家族を失ったおばあちゃん、妹、彼氏、子ども、犬と、それぞれ別々に「家族ごっこ」をしていた亜美たちが、あるきっかけで全員集合する物語。

 こういう家族のカタチもありかなと思えます。

『深海のポール』

 レンタルビデオ店で店長をしている渡部の父が、マンションの屋上に櫓を立てる物語。

 生き残るとはスマートなものではなく、必死になってはじめて出来ることなんだと教えてくれます。

 ◆

 これら8つの異なる物語が今の生き方で大丈夫?と問いかけてくる小説です。

 『終末のフール』のおすすめポイント

1. 今を必死に生きようと思える

 8つの物語に登場する人たちの終末の過ごし方をみていると、もともと死を意識して生きている人とそうでない人で、明暗がはっきりわかれているように思います。

 たとえば、死を意識せずに生きてきた人たちは、他人をバカにして自分の弱さを認めなかったり、優柔不断に生きて、あるいは適当なことばかり話して責任を取ろうとしなかったりしています。

 他にも今の生き方に満足していないのにその生き方を続けていたり、勝ち組・負け組という考えに酔いしれて自分を何とか保っていたりと悲しい生き方をしているんですよね。

 一方、死を意識して生きてきた人たちは、とにかく必死になって今を生きています。他人に褒められたり、チヤホヤされなくても、たとえカッコ悪くみえても今やるべきことに真剣に向き合っています。

 その瞬間だけを捉えれば、今を必死に生きている人の方が見苦しく、かっこ悪いように思えますが、本当に自分が満足できる人生を歩めるのは、スマートじゃない生き方を選んでいる人たちなんですよね。

 ニヤッとさせられる物語に潜んだ伊坂さんの想いに感動させられる小説です。

2. 登場人物の言葉が心に響く

 とはいえ、死を意識すれば誰もが今とは違う生き方を選択できます。その一歩を踏み出す勇気を与えてくれるセリフがこちら。

 たとえば、子どもを産むかどうかで悩んでいた富士夫は、

「試されている気がするんだ」
「僕たちがここで子供を諦めたら、それは小惑星の衝突を受け入れたことになるんじゃないかな。どこかで誰かがそれを見ていてさ、それならば、衝突させてやろうって判断するのかもしれない」

 重大な選択を迫られたときに逃げずにいようと思えますよね。

 他にも、なぜ、練習の手を抜かないのか質問されたプロボクサーは、

「俺は、俺を許すのか?って。練習の手を抜きたくなる時とか、試合で逃げたくなる時に、自分に訊くんです。『おい俺、俺は、こんな俺を許すのか?』って」

 さらに、明日死ぬとわかっても、なぜ練習を続けるのかと質問されると、

「明日死ぬとしたら、生き方が変わるんですか?」
「あなたの今の生き方は、どれくらい生きるつもりの生き方なんですか?」
「できることをやるしかないですから」

 今、目の前にあることを精一杯やろうと思えます。

 もうひとつ。子どもがいじめにあい、自殺しようと思っていたことを伝えられた父は、

「自殺したらいけねえ理由なんて、知らねえよ、ばーか」
「とにかく、絶対、死ぬんじゃねえぞ」
「あのな、恐る恐る人生の山を登ってきて、つらいし怖いし、疲れたから、もと来た道をそろそろ帰ろうかな、なんてことは無理なんだよ」
「何様なんだよ、おまえは。俺は、登ったらどうですか、なんてことを言ってるんじゃねえんだよ。登れる限りは登れって命令しているんだ。それにな、たぶん、登り切ったらな、山の頂上からの景色はきっと格別だぞ」

 どれだけツライことがあっても、前を向いて歩いて行こうと思えます。

 このような名言が物語のいたるところに埋め込まれているので、読みながら心に突き刺さってくるんですよね。

 今の生き方で大丈夫かな?と思っているのなら、きっと心に響く言葉に出会えるはず。

3. 死を意識せずに生きていることがわかる

 このような物語を読まないと、いつかは死ぬという当たり前のことさえ忘れてしまうほど豊かな社会で生きていることがわかります。

 本当に死ぬ可能性がある状況で暮らしていたら、このような物語を読まなくても今を必死になって生きているはずですよね。

 というわけで、安全で安心できる社会で暮らしている私たちにとって、死を意識させてくれる物語が必要なんでしょうね。

 最後に

 伊坂幸太郎さんの小説『終末のフール』。読めば今を必死に生きようと思えます。

 気になった方は、ぜひ読んでみてください。

 関連記事

人の心も科学!?東野圭吾『ガリレオの苦悩』は心に響く言葉が満載の小説

(※『ガリレオの苦悩』表紙より)  東野圭吾さんの小説『ガリレオの苦悩』。  今作から新たに加わった女性刑事・内海薫の登場により物語の幅が広がったミステリー小説です。読めば湯川准教授の言葉が心に響くこと間違いなし!?   …

読書が好きじゃなくても本が読みたくなる小説―part2

(※『ビブリア古書堂の事件手帖 2 栞子さんと謎めく日常』表紙より)  読書していますか?  この前のエントリで『ビブリア古書堂の事件手帖―栞子さんと奇妙な客人たち』を紹介しましたが、今回はその続き『ビブリア古書堂の事件 …

畠中恵『ぬしさまへ』は若だんなの大人になりたい想いに感動する小説

(※『ぬしさまへ』表紙より)  畠中恵さんの小説『ぬしさまへ』。  『しゃばけ』シリーズ第2弾の本作は、病弱で両親や妖怪たちから甘やかされて育った若だんなが大人になりたいと強く願う物語です。読めば自分も頑張ろうと思えるこ …

自分の弱さに嫌気がさしたときに読んで欲しい小説/西加奈子『おまじない』

(※『おまじない』表紙より)  自分の弱さが嫌になることありませんか?  私はよくあります。上司に「休ませてください」と直接言いづらくて、メールで連絡したり、プレゼンの前日に緊張して眠れなかったり、スマホのゲームに夢中に …

無駄なことでも誰かの役に立つかもしれない/伊坂幸太郎『フィッシュストーリー』

(※『フィッシュストーリー』表紙より)  無駄なことはやめようと思っていませんか。  もちろん、本当に無駄なことはやめた方がいいですが、無駄に思えても一生懸命にやったことは、めぐりめぐって誰かの役に立つかもしれません。 …

この世には2種類の女性がいる/湊かなえ『母性』感想

(※『母性』表紙より)  数日前に湊かなえさんの小説『未来』を読んで「面白くない!」という感想を書いたので、改めて湊さんの面白い小説に出会いたいと思い『母性』を読みました。  結果、書き出しから惹きつけられ、『未来』とは …

自分らしく生きるとは?柚木麻子『BUTTER』は首都圏連続不審死事件をテーマにした小説

(※『BUTTER』表紙より)  柚木麻子さんの小説『BUTTER』。  首都圏連続不審死事件をテーマに、なぜ木嶋早苗(作品内では梶井真奈子として登場)に多くの人たちが注目したのかを、その背景と共に描いた小説です。  読 …

読書が好きじゃなくても本が読みたくなる小説

(※『ビブリア古書堂の事件手帖―栞子さんと奇妙な客人たち』表紙より)  読書していますか?  私は最近、ビジネス書や数学関連の本ばかり読んでいたので、小説から少し離れ気味でしたが、『ビブリア古書堂の事件手帖―栞子さんと奇 …

他人に勝つことよりも自分に負けないことが大切な理由

(※『道誉なり』表紙より)  私たちが住む世界には、権力やお金、名誉などをかけた闘いが星の数ほどあります。  身近なところで言えば、会社での出世争いや住んでいる場所での格付け争い、あるいはSNS上での知名度争いなどがそう …

考えろ考えろマクガイバー、考えなきゃ騙されるぞ/伊坂幸太郎『魔王』感想

 最後まで読み切ってもストーリーがよくわからない小説。それが伊坂幸太郎さんの『魔王』。  登場人物のセリフを追いかけていくと、いろいろ考えさせられるんですけどね。  魔王って誰のこと?  タイトルにもなっている …