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 「今の仕事がキツイから農業でも始めようかなぁ」「退職後に農業でも始められたらいいなぁ」…なんて考えていませんか。

 もし、そんな甘い考えをしているようなら、垣谷美雨さんの小説『農ガール、農ライフ』を読むことをおすすめします。

 きっと、農業はやめておこうって思いますよ。

 農業は想像以上に大変

 テレビで農業特集が組まれることがありますよね。そんなとき、農家のイメージを良くするためか、次のようなメリットがあると報道しています。

・地に足のついた自給自足の生活が実現できる
・機械を使えば力も体力もいらない
・地域の人たちも新規就農に協力的
・販売経路も複数ある
・田畑も安価で借りられる

 しかし、現実はそんなに甘くありません。実際は、

・農業だけでは食べていけない
・力も体力も必要な重労働
・就農しようと思ってもよそ者には非協力的
・販売経路は限られており、売り手で溢れている
・そもそも田畑を貸してくれない

 など、農家になるだけでも一苦労です。それでもどうにかして農家になっても、夫婦二人でなんとかこなせる重労働。独身女性が一人でやるのは至難の業で、収入も労働に見合いません。

 そのため、独身女性が農業を始める場合、農家に嫁ぐのが一般的なんだとか。つまり、テレビ報道は、農家に嫁いでくれる女性を募集するためのものだったんですよね。

 物語の主人公・久美子は、仕事も彼氏も失い、甘い言葉に誘われて農家を目指しますが、厳しい現実を知ってもひとりで農業を始めることにしました。農家に嫁ぎたいとは思えなかったからです。

 しかし、すぐに心が折れてしまいます。先輩や友達に比べて自分が惨めに思えたからです。ところが…。

 結婚しても、他の仕事をしても悩みは消えない

 農業以外の仕事に就いても、結婚して家事・育児に専念するようになっても、悩みが消えてなくならないことを知ります。

 久美子の大学時代の先輩・憩子や友人の瑞希も幸せそうに見えて、実は悩みを抱えていることに気づいたからです。

 憩子はオーストラリアで働くキャリアウーマン。今はオーストラリア人の男性と同棲しています。

 こう聞くと幸せな毎日を過ごしているように思えますが、実際は仕事が忙しくて、服装や身だしなみを整える時間もありません。同棲相手の両親からは「アジア人との結婚は許さない!」と猛反対されています。

 結婚を機に専業主婦になった瑞希も、家族との幸せな暮らしぶりや家庭菜園の様子、手作りのお菓子などをブログに載せていましたが、現実はまったく違っていました。幸せアピールをしていただけです。

 つまり、何をするにしても、悩みや苦労があるということ。久美子は、他人を羨ましがるのではなく、目の前にある現実に向き合っていくしかないことに気づきました。そこで彼女は…。

 厳しい現実に立ち向かうには人とのつながりが重要

 他人と協力しながら厳しい現実に立ち向かっていきます。

 憩子やそのお母さん、農家のおばあちゃんや瑞希など大勢の人を巻き込んで幸運を掴んでいくんですよね。

 そんな彼女の姿を見ていると、人とのつながりを改めて大切にしたいと思えます。忙しいからと言い訳をするのではなく、人とのつながりを大切にしながら、個性を発揮しながら、目の前にある課題を乗り越えていこうと思えるんですよね。

 そうすれば、自分だけでなく、周りにいる人たちも幸せに出来るかもしれません。

 ◆

 垣谷美雨さんの小説『農ガール、農ライフ』。今の仕事がキツイからといってすぐに諦めるのではなく、人とのつながりを大切にしながら乗り越えていこうと思える物語です。

 気になった方は、ぜひ読んでください。

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