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 サスペンスはお好きですか?

 私はサスペンスと聞くとシリアスなイメージを思い浮かべますが、伊坂幸太郎さんの小説『陽気なギャングの日常と襲撃』はシリアスとはかけ離れていました。

 前作同様に、シリアスなシーンでもギャングたちがドタバタしながら楽しそうに困難を乗り越えていくユーモアあふれる物語なんですよね。

 4人のギャングそれぞれの物語が語られる

 では、あらすじから。

 他人の嘘が見抜ける成瀬には、「公務員なんかと結婚させられるか」と彼女の父親から結婚を反対されている部下がいました。彼の名前は大久保です。

 成瀬はそんな大久保と外出中に、マンションの屋上で年配の男性が不審者にナイフを突きつけられている事件に遭遇します。

 その年配の男性とは、市役所にクレームをつけてきた門馬という男でしたが、彼はなぜか自分の身の危険よりも、別のことに気を取られていました。

 彼が気にしていたのは…。

 口から出まかせばかり言っている響野は、喫茶店のマスターでしたが、その常連客である藤井から、幻の女性について相談されます。

 その女性はノゾミという名前で彼の家に書き置きを残していましたが、藤井は飲みすぎて昨日の記憶がまったくありませんでした。

 ところが、その女性の存在を確かめようと、昨日一緒に行動した友人や訪れた店のマスターに尋ねても、誰もがそんな女性は知らないと言います。

 この謎を解き明かしたのが…。

 正確な体内時計をもつ雪子は、同じ会社で働いている鮎子から不審な出来事が立て続けに起こっていると相談を受けていました。

 鮎子は後輩に「課長から呼ばれていますよ」と言われて課長に会いに行きましたが、課長は呼んだ覚えなどないと言います。

 それだけでなく、彼女は会社には内緒でアルバイトをしていたのですが、そのアルバイト先で入手困難な舞台のチケットが彼女宛に置かれていました。

 この話を聞いた雪子は…。

 スリが得意な久遠は、夜の公園で知らない男性から殴られた和田倉という男を介抱していました。

 もちろん、久遠は和田倉を殴った男の財布を盗んでおり、彼の名前が熊島洋一だと判明します。

 ところが、熊島を追いかけてわかったことは、和田倉が違法カジノに出入りしていることでした。そのことを知った久遠は…。

 4つの物語がある事件へとつながっていく

 と、ここまで4人のギャングの物語を紹介してきましたが、これら4つの物語がある事件へとつながっていきます。

 その事件とは、筒井ドラッグの経営者の娘・筒井良子が誘拐された事件でした。

 成瀬たちがこの事件に気づいたのは、銀行強盗に入ったときです。そのとき、成瀬がその場に居合わせた良子をみて、大久保の彼女であることに気づきます。

 さらに、良子が怪しい人物に脅されていることに気づいた成瀬は、久遠が機転を利かせて仕込んだ発信機を頼りに、良子を助けに行くことにするんですよね。

 ところが、これがキッカケでさらに大きな事件に巻き込まれることになります。

 では、なぜギャングたちは関係のない誘拐事件に首を突っ込んだのでしょうか。それは、彼らは悪いことばかりしていたので、たまには人助けをしたくなったからです。

 『首折り男のための協奏曲』の主人公と同じ理由ですね。

 とはいえ、人助けのために時間とお金と命をかけて闘うのはカッコいいのですが…。

 コメディとしても楽しめるサスペンス小説

 なぜか本気度が感じられず、何が起きても楽観的にユーモアを交えながら行動してきます。そんなギャングたちの姿をみていると、シリアスな空気が吹っ飛んで楽しい気分になれるんですよね。

 彼らのセリフも笑えるものばかりです。たとえば、

「この喫茶店ほど知的な場所はないぞ、さっきも慎一に教えてやったしな」
「何を」
「合コンじゃよく、五対五、だとか、三対三、だとか言うだろ。『明日の合コン五対五だよ』とかな。あれは何のことだろうって言うからな、合コンは点数制で、引き分けを狙うのだ、と教えてやった」

 他にも、

「今の日本で公衆電話を探すのは至難の業だぞ」
「私も相当苦労したからな、そう簡単には見つからないはずだ。こういうのは、おそらく人間の持っている、人間力のようなものが影響してくるからな」
「あ、あそこにありました」

 さらにもうひとつ。

「今日、客から電話があったんですよ。コタツの件はもういいから、あの騒がしい社員だけは寄越さないでくれって」
「いったい、何を喋ったんですかね、響野さん」
「うちの旦那でも役に立つんだね」

 なんてユーモアあふれるセリフが満載です。

 というわけで伊坂幸太郎さんの小説『陽気なギャングの日常と襲撃』は、ギャングたちがドタバタしながら楽しそうに困難を乗り越えていくユーモアあふれる物語です。

 気になった方は、ぜひ読んでみてください。

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