webstation plus

 ミステリーというと、かっこいい主人公が謎を解き明かして犯人を追い詰めるイメージがありますよね。名探偵コナンもそのひとつです。

 もちろん、こういった本格派ミステリーも面白いのですが、伊坂幸太郎さんの小説『陽気なギャングの日常と襲撃』はひと味違います。ギャングたちがドタバタしながら謎を解き明かしていくんですよね。気軽に楽しめる物語です。

 4つの異なる物語が強引につながる

 「公務員なんかと結婚させられるか」と彼女の父から結婚を反対されている大久保は、上司である成瀬と外出中にマンションの屋上で年配の男性が不審者にナイフを突きつけられている事件に遭遇しました。しかし、その年配の男性はなぜか自分のことよりも別のことを気にしています。

 口達者なマスター・響野が経営する喫茶店の常連客である藤井は、朝起きると女性からの書き置きを見つけますが、飲みすぎて昨日の記憶がありませんでした。そこで、その女性の存在を確かめるために響野と共に行動しますが、なぜか誰もそんな女性は知らないと言います。

 運転上手な雪子と同じ会社で働く鮎子は、後輩から「課長から呼ばれていますよ」と伝えられますが、課長からは知らないと言われます。さらにバイト先では、入手困難な舞台のチケットが彼女宛に置かれていました。

 違法なカジノに出入りしていた和田倉は、夜の公園で知らない男性から殴られました。その公園で出会った久遠と一緒にその男性を追いかけると、意外な事実が明らかに。

 …と、これら4つの異なる物語がある事件へと強引につながっていきます。

 その強引さが面白く、また物語の後半で4人のギャングが勢揃いするので、前作『陽気なギャングが地球を回す』ファンとしては嬉しい展開なんですよね。

 4つの物語は短編としても楽しめ、さらにそれらが長編ヘとつながっていくので、二度楽しめる小説です。

 陽気なギャングたちのセリフが笑える

 たとえば、

「この喫茶店ほど知的な場所はないぞ、さっきも慎一に教えてやったしな」
「何を」
「合コンじゃよく、五対五、だとか、三対三、だとか言うだろ。『明日の合コン五対五だよ』とかな。あれは何のことだろうって言うからな、合コンは点数制で、引き分けを狙うのだ、と教えてやった」

 他にも、

「今の日本で公衆電話を探すのは至難の業だぞ」
「私も相当苦労したからな、そう簡単には見つからないはずだ。こういうのは、おそらく人間の持っている、人間力のようなものが影響してくるからな」
「あ、あそこにありました」

 さらにもうひとつ。

「今日、客から電話があったんですよ。コタツの件はもういいから、あの騒がしい社員だけは寄越さないでくれって」
「いったい、何を喋ったんですかね、響野さん」
「うちの旦那でも役に立つんだね」

 なんて笑えるセリフが満載です。読みながらニヤケてしまうこと間違いなし。

 悪い奴らもたまには人助けをする

 今回の物語では、ギャングたちは何の利益にもならない「誘拐事件」の解決に乗り出します。

 その理由は、ギャングたちは日頃から悪いことばかりしているので、たまには人助けをしたくなるというもの。『首折り男のための協奏曲』に登場する主人公と同じ理由です。

 その人助けのために時間とお金と命をかけて闘うのはカッコいいのですが、なぜか本気度が感じられず、何が起きても楽観的にユーモアを交えながら行動するので、なんだか笑えてくるんですよね。

 本格派ミステリーとは一味違う楽しみ方ができる物語です。おすすめです。

 関連記事

伊坂幸太郎『オー!ファーザー』/父親の役割ってなに?

 結婚して子どもが生まれると「やるべきこと」が驚くほど増えますよね。  仕事をするのは当たり前として、子どもと遊んだり、勉強を教えたり、買い物に行ったりと、子どもと共に行動する日々が続きます。  これで本当に子育てができ …

若だんなに勇気づけられる!?畠中恵『うそうそ』は他人を犠牲にしても利益を得ようとする人たちを描いた小説

(※『うそうそ』表紙より)  畠中恵さんの小説『うそうそ』。  しゃばけシリーズ第5弾の本作は、相変わらず病弱な若だんなが箱根で誘拐事件、天狗の襲撃、止まらない地震などの厄介ごとに巻き込まれる物語です。  読めば、若だん …

百田尚樹『影法師』感想/光と影はふたつでひとつ

 「光が多いところでは、影も強くなる」とゲーテが言ったように、光あるところには必ず影が存在します。  しかし、私たちは光だけを追い求めて、影の存在を否定しがちですよね。  たとえば、宝くじを買ったり、株やFXで一儲けしよ …

伊坂幸太郎『シーソーモンスター』/対立はなくならない…ではどうする?

 なぜか出会った瞬間にイヤな気持ちになる人っていますよね。何がイヤなのかはわからないけれど、とにかく気分がムカムカしてくる人がいます。  そんな人がいる限り「対立」はなくなりませんが、ではどうすれば互いにとって良い関係が …

想像以上の成果を出してる?/知念実希人『祈りのカルテ』感想

(※『祈りのカルテ』表紙より)  仕事で想像以上の成果を出していますか。  私は残念ながら想像を下回る成果しか出せていません。なぜなら、計画通りの行動しかしていないからです。  新しいことに挑戦するとき、リスクはつきもの …

殺人にも意味を求めるのが人間らしさ/伊坂幸太郎『死神の精度』感想

 「生きている理由なんてもとからないんだ」と決めつけている死神と、生きる意味を追い求める人間たち。その対比を通して人間らしさとは何かを描いた小説が伊坂幸太郎さんの『死神の精度』です。  人はどんなことにでも意味を求めます …

木皿泉『カゲロボ』/他人の不幸を求めている人へ

 他人の不幸を望んでいませんか。  もしそうだとしたら、心が傷だらけの証拠。今すぐ癒される何かに触れるべきです。  たとえば、木皿泉さんの小説『カゲロボ』などはいかがでしょうか。  人の不幸をみて安心したい   …

浅田次郎『天切り松 闇がたり1』感想/効率を上げるのは自殺行為!?

 昔の自慢話をする人って嫌ですよね。  私も大嫌いですが、「昔はすごかったんだぞ!」と語りかけてくる物語があります。それが浅田次郎さんの小説『天切り松 闇がたり1』。  大正時代の悪党どもに「天切り松」と呼ばれる老人が昔 …

原田マハ『本日は、お日柄もよく』は言葉の力を信じたくなる物語

 言葉には世界を変える力があります。  たとえば、2008年のアメリカ合衆国大統領選挙で、バラク・オバマが民主党の候補者に選ばれたのは、言葉の力を使ったからでした。  当時、次の大統領候補として最も呼び声が高かったのは、 …

誰もが宗教に関わっている!?今村夏子『星の子』は新興宗教にハマった家族を描いた小説

(※『星の子』表紙より)  宗教は自分には関係のないものだと思っていませんか。  私は思っていました。洗脳された人が、怪しいものを買ったり、変な行動を取ったりするものだと思っていました。  しかし、今村夏子さんの小説『星 …