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(※『アイネクライネナハトムジーク』表紙より)


 伊坂幸太郎さんの小説『アイネクライネナハトムジーク』。「あとがき」にも書かれているように、伊坂さんにしては珍しく、泥棒や強盗、殺し屋や超能力、恐ろしい犯人、特徴的な人物や奇妙な設定が出てこない恋愛小説です。

 しかし、伊坂さんらしさがギッシリつまった作品でもあります。読めばクスッと笑うこと間違いなし!?

 今回は、『アイネクライネナハトムジーク』のあらすじと感想を紹介します。

 『アイネクライネナハトムジーク』のあらすじと感想

1. 『アイネクライネ』

 仕事で重大なミスを犯した佐藤は、罰として課長から街頭インタビューを命じられます。はじめは嫌々やっていた佐藤でしたが、これがキッカケで素敵な女性と出会えることに。

 「出会いはどこにでも転がっている」と思わせてくれる物語です。ただし、待っているだけではいけません。それがわかるセリフがこちら:

「ようするに、外見が良くて、性格もおまえの好みで、年齢もそこそこ、しかもなぜか彼氏がいない女が、自分の目の前に現れてこねえかな、ってそういうことだろ?」
(中略)
「そんな都合のいいことなんて、あるわけねーんだよ。しかも、その女がおまえのことを気に入って、できれば、趣味も似てればいいな、なんてな、ありえねえよ。どんな確率だよ。ドラえもんが僕の机から出てこないかな、ってのと一緒だろうが」

 淡い期待を抱いている暇があるなら、さっさと動きだせということですね。

2. 『ライトヘビー』

 美容師の美奈子は、よく担当する客・板橋香澄から弟を紹介されます。はじめは乗り気でなかった美奈子でしたが、香澄のいたずらがキッカケで電話をする仲に発展。

 しかし、彼は仕事の都合で突然1ヶ月ほど音信普通になることが。いったい彼は何者なのか!?

 最後に彼の正体が明かされるのですが、それが驚きの物語。意外なカタチで告白されると喜びも大きくなるのかもしれませんね。

3. 『ドクメンタ』

 5年に1度やってくるイベント。それは免許の更新。

 几帳面な妻に愛想を尽かされた藤間は、5年前に自動車免許センター内で出会った女性に再会したいと思い、免許更新ぎりぎりの日に出かけます。無事、彼女に再会できた藤間でしたが、そこで思わぬ話を聞かされました。藤間にも妻と寄りを戻すチャンスが訪れる!?

 「銀行の記帳」がキーとなる物語。この物語を読めば、妻に愛想を尽かされた人たちは銀行に記帳しに行きたくなるはず。もちろん、愛想を尽かされないほうがいいのですが…。

 では、どうすれば愛想を尽かされないのでしょうか。その方法は:

「いいか、藤間、外交そのものだぞ。宗教も歴史も違う、別の国だ、女房なんて。それが一つ屋根の下でやっていくんだから、外交の交渉技術が必要なんだよ。一つ、毅然とした態度、二つ、相手の顔を立てつつ、三つ、確約はしない、四つ、国土は守る。そういうものだ。離婚だって、立派な選択だ。ともにやっていくことのできない他国とは、距離を置くほうがお互いの国民のためだからな」

 妻とのコミュニケーションは外交!?肝に銘じておきたいと思います。

4. 『ルックスライク』

 ファミレスでアルバイトをしていた笹塚朱美は、客に執拗に絡まれますが、「こちらの方がどなたの娘さんがご存知の上で怒っているんですか?命知らずだなぁ…」と言って割り込んできた男性に助けられました。そして、この出来事がキッカケで、その男性とお付き合いをすることに。

 一方、高校生の久留米和人は、美人の同級生・織田美緒から無賃駐車をする人物を捕まえようと声をかけられます。一見、関係なさそうな二つの物語がシンクロする!?

 『この子がどなたの娘かご存知ですか作戦』が面白い発想の物語。結婚する前にこの作戦を知っていたら使っていたかもしれません。

5. 『メイクアップ』

 高校時代にいじめにあっていた窪田結衣。そんな彼女が大人になり、化粧品会社に勤めるようになってしばらく経った頃。新商品のプロモーションをさせて欲しいと彼女をいじめていた人物・小久保が現れます。

 しかし、小久保は外見も苗字も変わった窪田のことに気づきません。窪田に復讐のチャンスが訪れる!?

 いじめにあっていた人たちは、機会があっても復讐しないのかもしれません。だからいじめっ子が世に憚るのかも。

6. 『ナハトムジーク』

 ボクサーのウィンストン小野を中心に、これまでの5つの物語がリンクしていくお話。すべての謎が回収されていくので、読んでいてスッキリする物語でした。さすが伊坂さん!?

 そんな『ナハトムジーク』でお気に入りのセリフがこちら。

「どうせ親がいなかったから乱暴なんだ、とか思われたら、ほかの頑張ってる子供に申し訳ないでしょ。行儀良くて、常識があって、でも強い、というのが格好いいじゃないの」

 恋愛においてもギャップって大切ですよね。

 最後に

 『アイネクライネナハトムジーク』は、パートナーや彼氏・彼女がいるなら、出会った頃の初々しい気持ちが思い出せる小説。いなくても、出会いはどこにでも転がっていると前向きな気持ちになれる小説です。

 恋愛小説が苦手な方にもオススメ。気になった方は、ぜひ読んでみてください。

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