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(※『アイネクライネナハトムジーク』表紙より)


 伊坂幸太郎さんの小説『アイネクライネナハトムジーク』。

 「あとがき」にも書かれているように、伊坂さんにしては珍しく、泥棒や強盗、殺し屋や超能力、恐ろしい犯人、特徴的な人物や奇妙な設定が出てこない恋愛小説です。

 しかし、伊坂さんらしさがギッシリつまった作品でもあります。読めばクスッと笑ってしまうこと間違いなし!?私にとって、伊坂作品の中でいちばん好きな物語かもしれません。

 今回は、そんな『アイネクライネナハトムジーク』のあらすじと感想を紹介していきます。6編から構成されている短編集なのでダイジェストで紹介していきますね。

 『アイネクライネナハトムジーク』のあらすじと感想

1. 『アイネクライネ』

 仕事で重大なミスを犯した佐藤は、罰として課長から街頭インタビューを命じられます。はじめは嫌々やっていた佐藤でしたが、これがきっかけで素敵な女性と出会えることに。

 出会いはどこにでも転がっている、と思わせてくれる物語です。

 そんな『アイネクライネ』でお気に入りのセリフがこちら。「なかなか、出会いがなくて」と言っている佐藤に向かってのセリフです。

「ようするに、外見が良くて、性格もおまえの好みで、年齢もそこそこ、しかもなぜか彼氏がいない女が、自分の目の前に現れてこねえかな、ってそういうことだろ?」
(中略)
「そんな都合のいいことなんて、あるわけねーんだよ。しかも、その女がおまえのことを気に入って、できれば、趣味も似てればいいな、なんてな、ありえねえよ。どんな確率だよ。ドラえもんが僕の机から出てこないかな、ってのと一緒だろうが」

 そんな淡い期待を抱く暇があるなら、さっさと動きだせということでしょうか。

「出会い系、って堂々と名乗ってる、出会い系サイトですら、めったに出会えねーんだぞ」

 確かにその通りですね。今、出会っている人たちとの関係を大切にしていきたいと思いました。

2. 『ライトヘビー』

 美容師の美奈子が、仲のいいお客さんに弟を紹介されます。直接会ってはいませんが、電話で週二回ほど話す関係に。しかし、彼は仕事の都合で突然1カ月半ほど音信不通になることが。いったい彼は何者なのか!?

 最後に彼の正体がわかるのですが、それが驚きの物語です。

 『ライトヘビー』でお気に入りのセリフがこちら。ビルの巨大モニターなどに「付き合ってください!」というメッセージを出す男性についてのセリフです。

「劇的とかさ、ロマンチックとかさ、そういうのを勘違いしているんだよね。重いだけだよ、そんなの」

 そんな強気なセリフを言っている女性に限って、実際にサプライズされると喜ぶみたいですけどね。

3. 『ドクメンタ』

 5年に1度やってくるイベントといえば免許の更新。几帳面な妻に愛想をつかされた藤間が自動車免許センター内で出会った女性と5年ぶりに再会する物語です。

 似たような境遇の人と出会うと意気投合しやすいですよね。藤間も彼女と出会ったおかげで…。

 『ドクメンタ』でお気に入りのセリフがこちら。妻に愛想を尽かされた藤間に向かってのセリフです。

「いいか、藤間、外交そのものだぞ。宗教も歴史も違う、別の国だ、女房なんて。それが一つ屋根の下でやっていくんだから、外交の交渉技術が必要なんだよ。一つ、毅然とした態度、二つ、相手の顔を立てつつ、三つ、確約はしない、四つ、国土は守る。そういうものだ。離婚だって、立派な選択だ。ともにやっていくことのできない他国とは、距離を置くほうがお互いの国民のためだからな」

 妻とのコミュニケーションは外交!?肝に銘じておきたいと思います。

4. 『ルックスライク』

 ファミレスで客に絡まれたウエイトレスが仲裁に入ってくれた男性とお付き合いをする話と、無賃駐車をする犯人を捕まえようとする高校生の話。

 一見関係なさそうな二つの物語がシンクロするところが面白い物語です。思わせぶりなセリフが登場するのですが、実際に使ってみたくなるんですよね。

 『ルックスライク』でお気に入りのセリフがこちら。サラリーマンの父に反発する息子に向かってのセリフです。

「あのね、歯車を舐めんなよ、って話だからね。どの仕事だって基本的には、歯車なんだから。で、歯車みたいな仕事をしていても、人生は幸せだったりもするし」

 私も高校生の頃は歯車には絶対になりたくないと思っていましたが…。歯車みたいな生活でも、それなりに幸せなんですよね。

5. 『メイクアップ』

 化粧品会社で働く窪田が高校時代にいじめられていた女性と再会する話。あの頃に比べて成長したように思えるいじめっ子でしたが…。

 復讐する機会があっても、いじめられていた人たちは復讐しないのかもしれませんね。だからいじめっ子が世に憚るのかも。

6. 『ナハトムジーク』

 ボクシングを中心にこれまでの5つの物語のその後を描いた話。これまでの謎がすべて回収されていくので、読んでいてスッキリするお話です。さすが伊坂さんって感じでした。

 『ナハトムジーク』でお気に入りのセリフがこちら。

「どうせ親がいなかったから乱暴なんだ、とか思われたら、ほかの頑張ってる子供に申し訳ないでしょ。行儀良くて、常識があって、でも強い、というのが格好いいじゃないの」

 恋愛においてもギャップって大切ですよね。

 最後に

 パートナーや彼氏・彼女がいるなら、出会った頃の気持ちを思い出すことができる小説。いなくても、出会いはどこにでも転がっていると思える小説です。

 私のような恋愛小説が苦手な方にもおすすめです。気になった方は是非!

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