webstation plus

(※『アイネクライネナハトムジーク』表紙より)


 恋愛小説はお好きですか?

 私はどちらかと言えば苦手で、これまであまり読んでこなかったのですが、伊坂幸太郎さんの作品ということもあって読んでみることにしました。

 結果、心配していたのがバカらしくなるくらい面白かったです。恋愛小説とは思えないストーリー構成だったからでしょうか。とにかく、恋愛小説が苦手な人でも楽しめます。

 そこで今回は、恋愛ものが苦手な人にこそ読んでほしい小説『アイネクライネナハトムジーク』のあらすじとおすすめポイントを紹介します。

 『アイネクライネナハトムジーク』のあらすじ

 『アイネクライネ』ではじまり、『ナハトムジーク』で終わる、全6編からなる短編集です。それぞれ簡単に紹介していくと、

『アイネクライネ』

 仕事でミスをした佐藤が、罰として街頭アンケートをさせられ、手首に「シャンプー」と書いた可愛い女性と出会い、偶然再開する物語。佐藤の友人である織田一真のセリフが物語を引き立てます。

『ライトヘビー』

 美容室で働く美奈子が客である板橋香澄に半ば強引に弟を紹介される物語。電話だけの関係が長期間続くという少し変わった設定に釘付けになり、最後は驚かされます。

『ドクメンタ』

 仕事ではきっちりしているのにプライベートではズボラな藤間が、妻に出ていかれ、免許更新のときに知り合った女性と再会する物語。浮気などの要素はまったくなく、妻との関係を修復したいと一途に願う藤間に好感がもてます。

『ルックスライク』

 ファミレスで注文を間違えたことを年配客から執拗に叱られていた笹塚朱美をある方法で救った邦彦の物語。そして、美人で人気者の織田美緒と駐輪場に行くチャンスを得た久留米和人が、駐輪代をケチるオッサンに抗議をする物語。この一見関係のない二つの物語が繋がります。

『メイクアップ』

 高校時代にいじめられていた窪田結衣が、いじめていた張本人・小久保亜季と再会する物語。高校時代とは立場が逆になったのに、相変わらずな結衣の行動に穏やかな気持ちになれます。

『ナハトムジーク』

 プロボクサーである小野の人生を振り返る物語。これまでの短編で登場してきた人物のその後がわかります。

 『アイネクライネナハトムジーク』おすすめポイント

1. クスッと笑える出会いが描かれている

 一応、恋愛小説というジャンルなので、男女の出会いが描かれているのですが、どれも少し変わった設定なので、読んでいてクスッと笑えるんですよね。

 たとえば、『アイネクライネ』では、仕事でミスをした佐藤が罰として街頭アンケートをさせられるのですが、これがキッカケである女性と出会います。しかし、このときは知り合いにさえなれなかったのですが、友人たちから『トイストーリー』の面白さをインプットされた後に、偶然再会することで「出会い」に発展します。

 『ライトヘビー』では、客である板橋香澄から半ば強引に弟を紹介された美奈子でしたが、あまり興味がもてませんでした。しかし、香澄に騙された弟から電話がかかってきて、しかもそのタイミングでゴキブリが出たことで「出会い」に発展します。

 『ルックスライク』では、客から叱られていた明美を、「こちらの娘さんをどなたかご存知ですか」作戦で邦彦が救い出したことで「出会い」に発展します。

 他にも、落とした財布を拾ってもらったことが出会いのキッカケになったり、免許の更新日をギリギリにしたことで出会ったりと、さまざまな出会いが描かれています。しかし、どれも現実には起こらなさそうな出会いばかりなので、読んでいてクスッと笑えるんですよね。

 他の恋愛小説とは一味違う出会いが楽しめます。

2. 恋愛小説とは思えない心に残るセリフが満載

 たとえば、

「じゃあ、訊くけどな。出会いって何だ」
「出会いとは、出会いだ」
「ようするに、外見が良くて、性格もおまえの好みで、年齢もそこそこ、しかもなぜか彼氏がいない女が、自分の目の前に現れてこねえかな、ってそういうことだろ?」
「そんな都合のいいことなんて、あるわけねーんだよ。しかも、その女が、おまえのことを気に入って、できれば、趣味も似てればいいな、なんてな、ありえねえよ。どんな確率だよ。ドラえもんが僕の机から出てこないかな、ってのと一緒だろうが」

 他にも、

「いいか、藤間、外交そのものだぞ。宗教も歴史も違う、別の国だ、女房なんて。それが一つ屋根の下でやっていくんだから、外交の交渉技術が必要なんだよ。一つ、毅然とした態度、二つ、相手の顔を立てつつ、三つ、確約はしない、四つ、国土は守る。そういうものだ。離婚だって、立派な選択だ。ともにやっていくことのできない他国とは、距離を置くほうがお互いの国民のためだからな」

 なんて心に残るセリフが満載。他の恋愛小説では絶対に出てこない、面白いセリフばかりなので、何度も読み返したくなります。

3. 他の伊坂作品同様に物語間のつながりが楽しめる

 『アイネクライネ』から『メイクアップ』の5編はそれぞれが独立した物語。しかし、『ナハトムジーク』ですべての登場人物が繋がります(繋がっていたことに気づきます)。

 少し強引なところはありますが、登場人物たちの繋がりに気づくとなんだか得した気分になれるんですよね。また、ここまで紹介してきたように、どの短編も恋愛小説らしからぬ設定です。実際、恋愛小説というよりは、泥棒や殺し屋などが出てこない伊坂作品を読んでいるような感覚が味わえます。

 そのため、恋愛ものが苦手な人にもおすすめできる恋愛小説です。

 最後に

 伊坂幸太郎さんの小説『アイネクライネナハトムジーク』。少し変わった恋愛小説なので、恋愛ものが苦手な人にこそぜひ読んでほしい小説です。

 気になった方は、ぜひ読んでみてください。

 関連記事

病弱でも強くなれる!?畠中恵『しゃばけ』は妖怪が活躍するミステリー小説

(※『しゃばけ』表紙より)  10年ほど前に買った畠中恵さんの小説『しゃばけ』。  久しぶりに読みましたが、病弱なのに難題に立ち向かう若だんなの姿に感動しました。読めば自分も頑張ろうと思えること間違いなし!?  今回は『 …

人とのつながりが元気の源!?柚木麻子『ランチのアッコちゃん』感想

(※『ランチのアッコちゃん』表紙より)  人とのつながりを大切にしていますか。  仕事や勉強、家事育児など私たちは忙しくなると、どうしても自分の世界に閉じこもりがちですが、それでは元気がなくなる一方です。  むしろ忙しい …

離婚はイヤ!?滝口悠生『茄子の輝き』は妻を大切にしようと思える小説

(※『茄子の輝き』表紙より)  滝口悠生さんの小説『茄子の輝き』。  数年前に妻と離婚した男性があれこれ過去を振り返る物語です。読めば「妻を大切にしよう!」と思うこと間違いなし!?  今回は『茄子の輝き』のあらすじとおす …

『小太郎の左腕』は出世の代償は高くつくことを教えてくれる小説

(※『小太郎の左腕』表紙より)  和田竜さんの小説『小太郎の左腕』。  山奥でひっそりと暮らす小太郎が、戸田家の名将・林半右衛門(はやし はんえもん)によって戦場に連れ出され、圧倒的な力を発揮する物語です。読めば、出世の …

読書が好きじゃなくても本が読みたくなる小説ーpart7

(※『ビブリア古書堂の事件手帖7 ~栞子さんと果てない舞台~』表紙より)  読書していますか?  『ビブリア古書堂の事件手帖』シリーズもついに7巻目。とうとう完結です。  栞子さんの母が家を出て行った理由が明らかになり、 …

人の不幸の上に幸せは築けない!?東野圭吾『容疑者Xの献身』は泣ける小説

(※『容疑者Xの献身』表紙より)  東野圭吾さんの小説『容疑者Xの献身』。  数学教師の石神が隣の部屋に住む女性を守るために、人生をかけて献身する物語です。読めば「人の不幸の上に幸せを築くことなんてできない」と思うこと間 …

悩むことに価値がある!?東野圭吾『真夏の方程式』は感動間違いなしの小説

(※『真夏の方程式』表紙より)  東野圭吾さんの小説『真夏の方程式』。  仕事で玻璃ヶ浦(はりがうら)にやってきた湯川准教授が小学五年生の恭平と出会い、思わぬ事件に巻き込まれる物語です。読めば感動すること間違いなし!? …

『かがみの孤城』は人とのつながりを大切にしたくなる小説

(※『かがみの孤城』表紙より)  辻村深月さんの小説『かがみの孤城』。  見ず知らずの中学生7人が鏡の世界に入り込み、一年間ともに過ごす物語です。読めば、「人とのつながりを大切にしよう」と思うこと間違いなし!?  今回は …

忍者は残酷!?『忍びの国』は家庭環境の影響力に驚かされる小説

(※『忍びの国』表紙より)  和田竜さんの小説『忍びの国』。  織田信長の次男・信雄(のぶかつ)が伊賀忍者たちに煽られ、信長の忠告を無視して伊賀に攻め込む物語です。読めば家庭環境や育った環境の影響力に驚くこと間違いなし! …

伊坂幸太郎『陽気なギャングが地球を回す』はあらすじでは伝えきれない魅力がある小説

(※『陽気なギャングが地球を回す』表紙より)  小説を読んでいますか?  小説と一言でいっても、さまざまなタイプがありますが、ありきたりな設定で、伝えたいテーマも弱く、読み終わった後も、ぼんやりとしかあらすじが思い出せな …