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 恋愛小説はお好きですか。

 私はどちらかと言えば苦手で、これまであまり読んでこなかったのですが、伊坂幸太郎さんの作品ということもあって読んでみました。

 結果、心配していたのがバカらしくなるくらい面白かったです。恋愛小説とは思えないストーリー構成だったからでしょうか。とにかく、恋愛小説が苦手な人でも楽しめる物語です。

 恋愛小説ではあり得ない出会いが描かれている

 一応、恋愛小説というジャンルなので、男女の出会いが描かれているのですが、6編ある短編のどれもが少し変わった設定なので、読んでいてクスッと笑えるんですよね。

 たとえば、『アイネクライネ』では、仕事でミスをした佐藤が罰として街頭アンケートを命じられるのですが、これがキッカケである女性と出会います。しかし、このときは知り合いにさえなれませんでした。ところが、友人たちから『トイストーリー』の面白さをインプットされた後に偶然再会することで「出会い」に発展するんですよね。

 『ライトヘビー』では、客である板橋香澄から半ば強引に弟を紹介された美奈子でしたが、彼に興味がもてませんでした。しかし、香澄に騙された弟から電話がかかってきて、しかもそのタイミングでゴキブリが出たことで「出会い」に発展します。

 『ルックスライク』では、客から叱られていた明美を、「こちらの娘さんをどなたかご存知ないのですか」作戦で邦彦が救い出したことで「出会い」に発展します。

 他にも、落とした財布を拾ってもらったことが出会いのキッカケになったり、免許の更新日をギリギリにしたことで出会ったりと、さまざまな出会いが描かれているのですが、どれも現実には起こらなさそうな出会いばかりなので、読んでいてクスッと笑えるんですよね。

 他の恋愛小説とは一味違う出会いが楽しめます。

 恋愛小説とは思えない心に残るセリフが満載

 たとえば、

「じゃあ、訊くけどな。出会いって何だ」
「出会いとは、出会いだ」
「ようするに、外見が良くて、性格もおまえの好みで、年齢もそこそこ、しかもなぜか彼氏がいない女が、自分の目の前に現れてこねえかな、ってそういうことだろ?」
「そんな都合のいいことなんて、あるわけねーんだよ。しかも、その女が、おまえのことを気に入って、できれば、趣味も似てればいいな、なんてな、ありえねえよ。どんな確率だよ。ドラえもんが僕の机から出てこないかな、ってのと一緒だろうが」

 他にも、

「いいか、藤間、外交そのものだぞ。宗教も歴史も違う、別の国だ、女房なんて。それが一つ屋根の下でやっていくんだから、外交の交渉技術が必要なんだよ。一つ、毅然とした態度、二つ、相手の顔を立てつつ、三つ、確約はしない、四つ、国土は守る。そういうものだ。離婚だって、立派な選択だ。ともにやっていくことのできない他国とは、距離を置くほうがお互いの国民のためだからな」

 なんて心に残るセリフが満載。他の恋愛小説では絶対に出てこない、面白いセリフばかりなので、何度も読み返したくなります。

 物語間のつながりが楽しめる

 『アイネクライネナハトムジーク』は全6編で構成されています。

 『アイネクライネ』から『メイクアップ』の5編はそれぞれが独立した物語ですが、『ナハトムジーク』ですべての登場人物が繋がっていたことに気づくんですよね。

 少し強引なところはありますが、登場人物たちの繋がりに気づくとなんだか得した気分になれます。

 また、ここまで紹介してきたように、この物語は恋愛小説というよりも、泥棒や殺し屋などが出てこない伊坂作品です。

 そのため、恋愛ものが苦手な人にもおすすめできる恋愛小説です。気になった方は、ぜひ読んでみてください。

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