webstation plus

raccoon_dog_01

 「家族」ってなんだろう。血がつながった人たちの集まりのことだろうか。それとも、一緒に暮らしている人たちのことだろうか。あるいは、愛し合っている人たちの集まりのことだろうか。

 たぶん、どれも正しくて、どれも間違っている。本当の家族とは、このどれでもないように思う。では、本当の家族とは何だ。

 小説『有頂天家族』は、「家族のあり方」についてひとつの答えを教えてくれる。物語の主人公は、父の長所を受け継いだ四兄弟の三男タヌキ。彼の父は、山に化けることができるほどの非凡な化け力と器の大きさをもち、傲慢な天狗である赤玉先生に「タヌキにしておくには惜しい人物」といわせるほどの狸であった。ところが、金曜倶楽部なる怖ろしい集団によって、狸鍋にされて食べられてしまう。

 残されたのは、「わが子はひとり残らず亡き父の跡目を継ぐにふさわしい狸」だと信じて疑わない母と、狸解では有名なダメ狸四兄弟だった。

 長男狸は、父から責任感だけを受け継いだ。亡き父のように立派な狸になろうと努力はしているが、融通が利かないうえに、緊急時になるとあわてふためいて混乱してしまう、土壇場に弱い狸だ。

 次男狸は、父からのんきな性格だけを受け継いだ。現在は寺の境内の古井戸の中で蛙に化けて隠居生活をしている。井の中の蛙なんとかやらだ。

 四男狸は、父から純真さだけを受け継いだ。化けるのが苦手で気が弱く、恐怖を感じるとすぐに狸姿に戻ってしまう。唯一の特技といえば、携帯電話の充電ができること。

 そして、主人公である三男狸は、父から阿呆ぶりだけを受け継いだ。「狸として如何に生きるべきか」という難問に取り組んだときには、「どうすべきか分からないときには、何もしない方が得策だ」というナポレオンの言葉に従ってぶらぶらと過ごし、「どうやら面白く生きるほかに何もするべきことなどない」という悟りを得るほどの阿呆ぶりである。

 このように性格も考え方も違う兄弟たちが、同じ場所で仲良く暮らせるはずなどない。だから、彼らは思い思いの生活をしていた。長男狸は父の後を継いで「偽衛門」という狸界の伝統的な称号を手に入れようと躍起になり、次男狸は井の中の蛙として他人の悩みや愚痴の聞き役に徹していた。四男狸は修行と称して偽電気プラン工場でバカ狸にいじめられながらも働き続け、主人公である三男狸は女子高生に化けて天狗の世話をしていた。

 ところが、そんな彼らに危機が訪れる。長男狸が金曜倶楽部の標的になったのだ。このままでは、父と同じように長男狸まで狸鍋にされてしまう。そこで、彼ら四兄弟は一致団結した。それぞれが自分の特技を発揮し、金曜倶楽部に立ち向かっていく――。

 では、なぜ性格も価値観も異なる彼らが、危機的状況を前にして一致団結できたのだろうか。

 それは海よりも深い母の愛情と偉大なる父の他界があったからだ。どれだけ他人にバカにされようとも、子どもたちを信じぬく母の愛情によって、彼らはつながっていた。すなわち、どれだけバカなことをしようとも受け入れてもらえるという安心感があったのだ。そして、偉大なる父が狸鍋にされたことによって「母や兄弟は自分が守らなければいけない」という責任感が芽生えた。つまり、性格も価値観も異なる彼らは、安心感と責任感によってつながっていたのである。

 だから――、これから家族を築こうと思っている人、あるいは家族との関係をよくしていきたいと思っている人は、「安心感と責任感」という相反する気持ちを家族の誰もがもてる関係を築いていこう。すなわち、どれだけバカなことをしても受け入れるだけの度量と、ピンチに陥ったときには救おうとする優しさをもつことだ。そうすれば、四兄弟狸のように、普段は自分の好きなことをしていながらも、いざというときには助け合える、そんな有頂天な家族が築けるだろう。

 関連記事

辞める勇気をくれる小説『ちょっと今から仕事やめてくる』

 昨年、電通の新入社員が過労自殺した事件が話題になりましたよね。この事件をキッカケに電通のブラック企業っぷりが次々と明かされていますが、この事件に限らず、仕事が原因で自殺をする人が後を絶ちません。  では、なぜ彼らは自殺 …

「対等な関係」ってどんな関係?/伊坂幸太郎『チルドレン』感想

 伊坂幸太郎さんの小説『チルドレン』は、家裁調査員という聞きなれない職業を目指す学生時代と、その職業に就いてからの出来事を描いた物語です。『サブマリン』という続編が出ているので、復習の意味もこめて再読したのですが、本当に …

日本人にとってもはや戦争は他人事なの?/月村了衛『土漠の花』

 私がまだ子どもだった頃。終戦記念日にテレビをつけると、ほとんどのチャネルで戦争番組が放送されていた。「アニメやお笑いがみたい」と思っても、その日は諦めるしかなかったほどだ。  ところが、今では戦争番組そのものが減ってい …

タイトルに込められた真意とは?/山本兼一『利休にたずねよ』

 小説『利休にたずねよ』には、大きな謎が三つある。  ひとつは、「利休はなぜ美の頂点に君臨することができたのか」。当時、茶の湯には人を殺してでも手に入れたいほどの麗しさがあり、道具ばかりでなく、点前の所作にもそれほどの美 …

「光」あるところには必ず「影」が存在する/百田尚樹『影法師』

 「光が多いところでは、影も強くなる」――と、ゲーテがいったように、光あるところには必ず影がつきまとう。しかし、私たちは光だけを追い求め、影の存在を否定してしまいがちだ。  たとえば、宝くじを買ったり、株やFXで一儲けし …

理不尽な出来事もいつかは終わる/『首折り男のための協奏曲』

 理不尽な出来事、多いですよね。たとえば、私の知り合いでものすごく高い給料をもらっているのに、コーヒーを片手に悠々自適に仕事をしている人がいますが、その一方で、朝から晩まで血眼になって働いても、缶コーヒー1本も買う余裕の …

今の日本人には「武士道」が足りない/浅田次郎『黒書院の六兵衛』

 私たち日本人は「武士道」を失ってしまったのかもしれない。武士道とは、簡単にいえば「臆病者」「卑怯者」ではない生き方を貫くことだ。しかし、今の私たちは、たとえ「臆病者」「卑怯者」と罵られても、お金を生み出し、有名になりさ …

未来に必要なのは「効率」よりも「ムダ」/浅田次郎『闇の花道』

 「嫌われる上司の特徴ランキング」に必ずランクインしているのが、「昔の話ばかりする」ですが、「昔はすごかったんだぞ!」と言わんばかりに昔話を語って聞かせる小説があります。それが、『天切り松 闇がたり』シリーズ。  大正時 …

「好きなこと」をするには犠牲が伴う/東野圭吾『眠りの森』

 好きなことをするには、ある程度の「犠牲」がつきまとう。収入が減ったり、プライベートな時間が確保できなかったり、あるいは結婚や恋愛ができなかったり。それでも、「どうしてもやりたい!」と思える何かがあるのは、とても幸せなこ …

宝くじに当選しても「幸せになれない人」とは/川村元気『億男』

 「宝くじで3億円が当たったら何がしたい?」――あなたは、この質問になんて答えるだろうか。もし、「世界一周旅行がしたい」「高級車が欲しい」「豪邸を建てたい」なんてごくありふれた答えしか浮かばないようなら、たとえ3億円を手 …