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(※『地球星人』表紙より)


 自分らしく生きていますか?

 私は自分らしく生きていると思っていましたが、村田沙耶香さんの小説『地球星人』を読んで「自分らしさとは何なんだろう」と考えるようになりました。

 というよりも、むしろ自分らしさなんて追い求めるものじゃないと思うようになったんですよね。

 そこで今回は、村田沙耶香さんの小説『地球星人』を参考に「なぜ自分らしさなんて追い求めるものじゃない」のか考えてみたいと思います。

 『地球星人』ってどんな小説?

 主人公の奈月は、小学五年生の女の子。しかし、彼女は普通の小学生とは異なる環境で暮らしていました。

 いつも父や母、姉からサンドバックのようにキツイ言葉を浴びせられたり、叩かれたりしています。

 塾の先生からは性的な対象で見られ、弄ばれていました。母に相談しても奈月がおかしいと責められます。

 そんなツライ環境で育った奈月の救いは小学校に入った時に出会ったぬいぐるみ。奈月はぬいぐるみと出会ったことで、魔法少女に変身できるようになりました。

 魔法少女になった奈月は少しでも世界の役に立ちたいと願いますが――。

 現実と幻想が入り混じった世界観に釘付けになる物語です。

 なぜ自分らしさは追い求めるものじゃないのか?

1. 人間の一生がある程度決まっているからこそ社会は成り立っている

 作中では私たち人間の一生を工場にたとえています。

ずらりと整列した四角い巣の中に、つがいになった人間のオスとメスと、その子供がいる。つがいは巣の中で子供を育てている。
私たち子供はいつかこの工場をでて、出荷されていく。出荷された人間は、オスもメスも、まずはエサを自分の巣に持って帰れるように訓練される。世界の道具になって、他の人間から貨幣をもらい、エサを買う。やがてその若い人間もつがいになり、巣に籠って子作りをする。

 つまり、エサを自分の巣に持って帰る、子供を製造することができなければ「不良品」扱いされる世界で生きているのです。

 少し前にSNS上で、LGBTや人間の生産性についての議論が活発に行われていましたが、その背景には「人間工場の一部として振舞うべきだ」、「人間工場の不良品でも自由に生きたい」という対立があったように思います。

 もちろん、人間工場という概念に縛られて生きる必要はありませんが、あえてそれに反発するかのように生きる必要もありません。誰もが反発して生きれば、今の社会は破綻してしまうからです。

 では、実際に自分らしさを追求すればどのような破綻が生じるのでしょうか。

2. 自分勝手な振舞いを正義だと勘違いしてしまう

 あらすじでも紹介したように奈月は魔法少女として生きていました。

 父や母、姉からサンドバックのようにキツイ言葉を浴びせられても、叩かれても、魔法を使って乗り越えられる。人間工場の不良品でも、魔法をたくさん覚えれば世界の役に立てるかもしれない――そう一途に思って生きていたのです。

 そんな彼女の支えになっていたのが、同い年でいとこの由宇。彼の家庭も複雑な事情を抱えており、由宇は自分が宇宙人だと信じて生きていました。

 二人にとって、多くの人たちの「当たり前」が当たり前ではありません。生きるのがツライ世界で過ごしています。だからこそ、互いを必要とし、小学五年生にも関わらず結婚。そしてセックスをしてしまうのです。

 このことを知った大人たちは猛激怒。しかし、奈月はそんな大人たちを冷ややかな目で見ていました。自分たちも好き勝手にセックスをしているじゃないかと。

 とはいえ、大人たちは子供が産まれても責任が取れます。もちろん、奈月は責任が取れません。それなのに、自分の想いだけで突っ走り、正当化したんですよね。

 ある程度の常識がなければ自分勝手な振る舞いまで正当化してしまうことがわかる物語です。

3. 常識がない人たちが目指す世界は残酷

 そんな二人ともう一人が加わって奈月が大人になってからの生活が描かれるのですが、ここには書ききれないほどの衝撃的な出来事が待っています。

 常識がない人たちは、自分の効率だけを追い求めるので、強盗・殺人・共食いなど何をしても心が痛みません。ほんと読むのがツラくなるほどの出来事が起こり続けます。

 多くの著名人が「自分らしさを大切にすべきで常識なんて不要」と言いますが、すべての常識を取っ払って自分らしさだけを追い求めると怖ろしい世界が待っています。

 ぜひ実際に読んで驚愕の世界を味わってください。

 最後に

 村田沙耶香さんの小説『地球星人』。読めば「自分らしさなんて追い求めるものじゃない」ことがわかる物語です。

 気になった方は、ぜひ読んでみてください。

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