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(※『アヒルと鴨のコインロッカー』表紙より)


 私たちが生きている世界は、想像以上に厳しいですよね。

 たとえば、仕事。ほんの数十年前までは終身雇用が保証されていましたが、今ではいつリストラされるかわかったものではありません。非正規雇用もかなり増えました。

 差別問題もそうです。生まれた国が異なっていたり、同性愛者というだけで人間性まで批判する人たちがいます。

 そんな厳しい現実を生き抜くにはどうすればいいのでしょうか。

 結論から言えば、哲学とユーモアを持つこと。

 今回は、そんな想いにさせてくれた小説『アヒルと鴨のコインロッカー』のあらすじとおすすめポイントを紹介します。

 『アヒルと鴨のコインロッカー』のあらすじ

 大学進学を機に引っ越してきた椎名は、アパートの隣に住む河崎から「一緒に本屋を襲わないか」と誘われます。

 もちろん、はじめは断っていましたが、「隣の隣に住む外国人が彼女を失って落ち込んでいるんだ」「広辞苑を盗んで励ましてあげたい」「椎名のやることはそれほど難しいことではないんだ」などとそそのかされ、その気になります。

 ところが、河崎は広辞苑を盗むためではなく、ある目的のために本屋を襲おうとしていました。

 その鍵となるのが2年前の事件。ペットショップで働く琴美とその恋人のドルジは、ペット殺しを楽しむ若者たちから狙われるようになりました。

 河崎は琴美の元恋人という立場から彼らを助けようとしますが、彼自身も別のことで頭を抱えています。

 そんな彼らがたどり着いた結末は――。

 2年前の物語と現在の物語がひとつに繋がったとき、驚きと感動で胸がいっぱいになる物語です。

 『アヒルと鴨のコインロッカー』のおすすめポイント

1. 現実は想像よりも厳しいことがわかる

 私たちは色々なことを甘く考えて生きていますよね。

 45歳でリストラされた人たちを見ても自分だけは大丈夫だと思っていたり、リストラされてもすぐに転職先が見つかると考えていたり、AIとロボティクスの進化で多くの仕事がなくなると聞いても他人事だと思っていたり。

 しかし、このような現実は突然訪れるんですよね。

 琴美もそんな厳しい現実に直面したひとり。彼女はペット殺しの若者たちと出会い、追いかけられるようになりました。「あんたたち、気持ち悪い」と大声で叫んだからです。

 ところが、パスケースを落として、名前と住所、電話番号が彼らにバレても、どこか他人事のように思っています。

 河崎もそうです。彼は多くの女性と関係をもつことで恐ろしい病気にかかりますが、まさか自分がそんな病気にかかるなんて思ってもいませんでした。

 椎名もそうです。河崎から「本屋を襲わないか?」と誘われると、ホイホイついて行ってしまうような甘ちゃんですが、これがきっかけで人生がどうなるかなんて考えてもいません。

 このように登場人物たちの多くが甘い考えで生きているのですが、よくよく考えてみると、私たちも同じなんですよね。

 もう少し真剣に考えないと…と思える物語です。

2. 厳しい現実に立ち向かうのに必要なのは哲学とユーモア

 そんな中、物事を甘く考えずに生きている人物がいました。それがブータン人のドルジ。彼はブータン人らしく、宗教を自分の行動哲学としています。

 具体的には、

「善いことも悪いことも、やったことは、全部自分に戻ってくるんだ。今は違っても、生まれ変わった後で、しっぺ返しがくる」

 と信じて生きています。だから彼は、悪いことはしないで生きようと心に誓っていました。また、哲学を持たない、何をしでかすかわからない日本人を警戒していました。

 だからこそ、琴美がペット殺しの若者たちに襲われたとき、すぐに対処できたんですよね。

 とはいえ、哲学だけでは生きていけません。哲学に縛られると行動できなくなるからです。そこでドルジは河崎や琴美から日本の文化を学ぼうとします。

 ドルジが学ぼうとしていたものが特にわかるのが琴美の言葉。

「とにかく面倒だからさ、神様を閉じ込めて、全部なかったことにしてもらえればいいって。そうすれば、ばれない」

 なんだか適当な言葉ですが、このユーモアに満ちた言葉が人生を豊かにしているんですよね。

 彼らの行動から、厳しい現実に立ち向かうには、哲学とユーモアが必要だとわかります。

3. 哲学とユーモアがあればつらい現実も楽しく生きられるかもしれない

 ここまで紹介してきたように、私たちが生きる世界はとても厳しいです。しかし、哲学とユーモアがあれば少しは楽しく生きられるかもしれない…がテーマの物語です。

 なぜなら、哲学をもてば物事を甘く考えたり、他人に流されることがなくなり、さらにユーモアがあれば、つらい現実も少しは楽しくなりますよね。

 そんな思いをもった登場人物たちが活躍する『アヒルと鴨のコインロッカー』は、つらい現実に直面しても、前を向いて一歩踏み出そうと思える物語です。

 最後に

 伊坂幸太郎さんの小説『アヒルと鴨のコインロッカー』。読めば、つらい現実を生き抜くには、哲学とユーモアが必要だとわかります。

 気になった方は、ぜひ読んでみてください。

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