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(※『道誉なり』表紙より)


 私たちが住む世界には、権力やお金、名誉などをかけた闘いが星の数ほどあります。

 身近なところで言えば、会社での出世争いや住んでいる場所での格付け争い、あるいはSNS上での知名度争いなどがそうです。

 しかし、そこで勝ち取った優越感にどれほどの価値があるのでしょうか。北方謙三さんの小説『道誉なり』を読んで、強くそう思うようになりました。

 そこで今回は、『道誉なり』を参考に、他人に勝つよりも自分に負けないことが大切な理由を考えてみたいと思います。

 『道誉なり』ってどんな小説?

 物語の舞台は南北朝時代の日本。主君であり執権である北条高時を足利尊氏が攻め滅ぼすところから物語が始まります。

 このとき、主人公の佐々木道誉は近江守護職の六角氏を惣領と仰ぐ武士の一人。尊氏とは身分の差がありましたが、ひとりの男として尊氏に勝とうと心に誓いました。

 そこで道誉がとった戦略は、尊氏の命令に従って生きるのではなく、可能な限り自分の意思を通して生きること。バサラとして生きることにしたのです。

 足利尊氏と佐々木道誉。終生のライバルが繰り広げる闘いに胸が熱くなる物語です。

 なぜ他人に勝つよりも自分に負けないことが大切なのか?

1 . 頂点に立ったところで欲望は満たされないから

 当時の日本の頂点に立つ存在といえば天皇。足利尊氏に祭り上げられた後醍醐天皇は、日本の頂点に立ちましたが、権威だけでなく武力も手に入れようとしました。そこで息子の大塔宮を征夷大将軍にしようとします。

 しかし、尊氏と大塔宮の水面下での戦いは尊氏が圧勝。こうなると後醍醐天皇は簡単に息子を切り捨てます。そして次の方策を考えます。

 こうして後醍醐天皇が次々と手を打って尊氏から武力を取り上げようとしたのは、すべてを手に入れないと満足できなかったからでした。尊氏に帝という日本の頂点に立つ存在にしてもらったにもかかわらず、自分の思い通りにならない存在が許せなかったのです。

 また、日本という国は、帝の存在なくしては力を得ることができません。どれだけ力を得ても、帝に刃向かうと逆賊扱いされてしまいます。後醍醐天皇はこのことを利用して好き勝手に振る舞ったのかもしれません。

 そんな後醍醐天皇の姿をみて尊氏は思います。何の力もないのに、天皇家の血をひいているだけで権威を持つ帝。誰もが自分にひれ伏して当然と思い、民のことを考えもせずに自由に振る舞う帝という存在は本当に必要なのかと。

 後醍醐天皇の振る舞いを通して、頂点に立ったところで欲望は満たされないことがわかります。

2. 欲望を満たそうとすると多くの犠牲がつきまとう

 一方の尊氏も自分がすべての頂点に立とうと考えていました。

 尊氏は後醍醐天皇と対決するだけでなく、忠臣を見殺しにしたり、弟を殺したり、挙げ句の果てには息子まで殺そうとします。

 自分の欲望を満たすためには他人の犠牲を厭わなかったのです。根本的に尊氏は後醍醐天皇とよく似ていました。

 そうまでして尊氏が手に入れたものは、とても虚しいものでした。征夷大将軍になり、望んでいる息子を跡継ぎにできましたが、心から信頼できる友や部下は誰もいなかったのです。尊氏に残ったのは欲望だけでした。

 そんな尊氏の姿を見ていると、他人を蹴落として手に入れたものは、とても虚しいものでしかないと思えるんですよね。

 では、どうすればいいのでしょうか。

3. 自分に負けない闘いを繰り広げた道誉が羨ましくなる

 ここでようやく主人公である道誉の登場です。彼は尊氏と比べて身分は下でしたが、誰にも邪魔されることなく、自分らしく生きていました。

 政治・経済・軍事・芸能など、あらゆる面で非凡な才能を発揮し、世の中を動かしていきます。

 力で他人をひれ伏せすべてを手に入れようとした尊氏と、自分に負けずに才能で世の中を動かそうとした道誉。ある意味、対照的な二人がたどり着いた結末に自分の生き方を改めて考えてみたくなります。

 どちらの生き方を選ぶかは人それぞれですが、他人に勝つことよりも自分に負けない生き方のほうが楽しく生きられるように思います。

 あなたはどちらの生き方を選びますか?

 最後に

 北方謙三さんの小説『道誉なり』。読めば、他人に勝つことよりも自分に負けないことが大切だとわかる物語です。

 気になった方は、ぜひ読んでみてください。

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