webstation plus

soldiers_01

 私がまだ子どもだった頃。終戦記念日にテレビをつけると、ほとんどのチャネルで戦争番組が放送されていた。「アニメやお笑いがみたい」と思っても、その日は諦めるしかなかったほどだ。

 ところが、今では戦争番組そのものが減っているという。「視聴率が取れない」というのがその理由だそうだ。たしかに、今では「興味のないテレビ番組」をみる必要などなくなった。ゲームやネットといった娯楽が他にもあるからだ。これでは、多くの若者が戦争番組をみなくなったとしても仕方がない。

 さらに、若者だけでなく私たち親世代も「戦争に対する意識」が低くなったように思う。たとえば、終戦記念日のツイッターを覗いてみると、「戦争番組なんていらない。普段どおりの放送をしろよ」とツイートしている同年代の人たちが多くいる。

 これでは、「日本人にとってもはや戦争は他人事になった」といわれても仕方がない。戦争とは、ときどきニュースから流れてくる「映像の一部」になってしまったのだ。しかし、同じ日本人といっても、戦争に直面している人たちもいる。たとえば、自衛隊員。彼らのなかには、今でも危険な地域――部族間抗争が続いている南スーダンや、海賊行為が頻発するソマリア沖などに滞在している人たちがいる。

 小説『土漠の花』は、そんな危険な地域に滞在する自衛隊員を描いた物語である。舞台は、ソマリア国境まで数十キロのジプチ。彼ら自衛隊員たちは、墜落したヘリの探索救援活動にあたっていた。

 そんな彼らのもとに、ひとりの現地女性が駆け込んでくる。氏族間抗争で命を狙われているお姫様だ。「助けてください」をくりかえす彼女から詳しい話を聞きだそうとした自衛隊員たちだったが、すぐその後を追ってきた現地住民(ワーデン氏族)たちに銃を突きつけられた。そして――彼らワーデン氏族たちは一言も発せずに自衛隊員を含めた5人を殺害する。

 本来であれば、日本人を殺害すれば国際紛争に発展するため、簡単には殺害しないはずだ。それなのに、なぜワーデン氏族たちは自衛隊員を殺害したのだろう。結論からいえば、闇に葬れるという計算が働いていたからだ。

 彼ら自衛隊員がいた場所はアフリカの土漠。死体や武装を地中に埋めてしまえば、自衛隊員たちは「謎の消滅」を遂げることになる。何が起こったのか知るものはいない。あるいは、死体の始末などしなくても、そのまま放置するだけでいいかもしれない。通信手段さえ奪ってしまえば、深層は闇の中だ。だから、ワーデン氏族たちは、一言も発せずに自衛隊員たちを殺害したのである。

 そのため、生き残った自衛隊員たちは、望む、望まないに関わらず、この紛争に巻き込まれていく。文字どおり「生きるか死ぬか」の闘いだ。

 では、このような状況に陥ったとき、自衛隊員たちには何ができるのだろうか。日本国憲法第9条には「戦争の放棄」と「戦力の不保持」、そして「交戦権の否認」が定められている。すなわち、自衛隊員は法律上、ワーデン氏族に反撃できないのである。反撃できるのは、あくまでも「日本が直接攻撃」を受けた場合のみ。だから、法律を守るためには逃げ延びるしかない。

 しかし、本気でこちらを殺そうとしている相手に、生半可な反撃では生き延びることなどできない。そこで、自衛隊員たちは本気で相手を殺害することになる。こうして、自衛隊員vsワーデン氏族の小さな戦争が始まるのである。

 さて、この物語からわかることは、日本から現地へ派遣されている自衛隊員たちは、常にこのような危険と隣り合わせの生活をしているということ。そして、ひとつ間違えれば、国対国の本気の戦争に発展しかねない状況にあるということだ。

 特に、今の私たち日本人を取り巻く情勢は、とても危険である。「集団的自衛権の行使容認」や「北朝鮮の挑発行為」、「中国や韓国の海洋進出」など、私たち日本人が戦争に巻き込まれる可能性が大いにある出来事が乱発している。だからこそ、私たちは「戦争」について真剣に考え、議論していく必要がある。テレビで戦争番組をみなくても、この小説を読んで戦争について考えるキッカケにして欲しい。そうすれば、もっと「まともな議論」ができるようになるはずだ。

 関連記事

『食堂のおばちゃん』は今すぐ食堂に通いたくなる心温まる小説

(※『食堂のおばちゃん』表紙より)  食堂に勤めた経験がある著者・山口恵以子さんが描いた本作品。読めば心が温まるだけでなく、今すぐ食堂で美味しいご飯が食べたくなること間違いなしの小説です。  今回は小説『食堂のおばちゃん …

人間に与えられた「特権」を使わないなんて損!/百田尚樹『風の中のマリア』

 私たち人間には、他の生物にはない特権が与えられている。それは「目標がもてる」ということだ。  人間は、目標を追い求める動物である。目標へ到達しようと努力することによってのみ、人生が意味あるものとなる。 (アリストテレス …

「表現の自由」は守るべきなのか?/有川浩『図書館戦争』

 私たち日本人は、昔から「表現の自由」を制限されて生きてきた。たとえば、江戸時代。江戸時代には、キリスト教や幕府批判が禁止され、出版物から言論にいたる「幅広い表現」が取締りの対象であった。実際、幕府の軍事体制を批判する内 …

宝くじに当選しても「幸せになれない人」とは/川村元気『億男』

 「宝くじで3億円が当たったら何がしたい?」――あなたは、この質問になんて答えるだろうか。もし、「世界一周旅行がしたい」「高級車が欲しい」「豪邸を建てたい」なんてごくありふれた答えしか浮かばないようなら、たとえ3億円を手 …

『魔王』は自分の考えを信じる大切さを教えてくれる小説

(※『魔王』表紙より)  伊坂幸太郎さんの小説『魔王』。政治を舞台に、他人の意見に同調することの怖ろしさと自分の考えを信じる大切さを教えてくれる物語です。  今回は、『魔王』のあらすじと感想を紹介します。  『 …

『フィッシュストーリー』は異なるジャンルの4作品が楽しめる中編小説

(※『フィッシュストーリー』表紙より)  伊坂幸太郎さんの小説『フィッシュストーリー』。伊坂ワールドで大人気の泥棒・黒澤が活躍する『サクリファイス』『ポテチ』など、ジャンルの異なる4作品を集めた中編小説集です。  黒澤フ …

「光」あるところには必ず「影」が存在する/百田尚樹『影法師』

 「光が多いところでは、影も強くなる」――と、ゲーテがいったように、光あるところには必ず影がつきまとう。しかし、私たちは光だけを追い求め、影の存在を否定してしまいがちだ。  たとえば、宝くじを買ったり、株やFXで一儲けし …

『PK』は「勇気は未来に伝染する」がテーマのSF小説

(※『PK』表紙より)  伊坂幸太郎さんの小説『PK』。三編の中編から構成されており、「勇気は未来に伝染する」がテーマのSF小説です。読み進めていくうちに勇気が湧いてくること間違いなし!?  今回は『PK』のあらすじと感 …

信じる力の恐ろしさを教えてくれる小説『リア王』

 「プラシーボ効果」をご存知でしょうか。  別名、偽薬効果とも呼ばれており、たとえば夜眠れないと訴える患者に、医師が睡眠薬と偽ってビタミン剤を処方すると、患者は薬の効果を信じて安眠できるようになります。  他にも、「もっ …

「存在意義がない人」など一人もいない/東野圭吾『ラプラスの魔女』

 人間にとって大切なのは、この世に何年生きているかということではない。この世でどれだけの価値のあることをするかである。 (オー・ヘンリー)  たしかに、「価値」を生み出すことは大切だ。私たちが仕事をするのも「価値を生み出 …