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 サイコパスをご存じですか。100人に1人は存在する良心や罪悪感をもたない自己中心的な人たちで、簡単に人を騙したり、攻撃したり、ひどい場合だと殺人を犯したりします。

 そんなサイコパスは現実社会では犯罪者として逮捕されるケースも多いのですが、伊坂幸太郎さんの小説『死神の浮力』を読んで、サイコパスに立ち向かうのは難しいことがわかりました。

 死神のような圧倒的な強さを誇る存在を味方につけないと、徹底的にやられてしまうんですよね。

 サイコパスに娘を殺された主人公

 では、あらすじから。

 物語の主人公は小説家の山野辺遼。彼の娘はサイコパスである本城崇に連れ去られ殺されました。

 しかし、裁判では本城に無罪判決が下されます。本城は弱みを握っている人間に裁判で証言させるなど準備に余念がなかったからです。

 さらに、本城は毒を注射したシーンを山野辺夫婦に送りつけます。それだけでなく、無罪になった本城はテレビに出演して山野辺夫婦を煽るような言動を繰り返しました。

 本城は娘を殺すだけでは満足せずに、山野辺夫婦を徹底的に追い詰めようとしていたんですよね。まるでゲームを楽しむかのように。

 そこで、山野辺夫婦は娘の敵討ちをする決意をしますが…。

 そんな彼らの前に死神の千葉が現れます。千葉は「本城が潜伏しているホテルの場所を知っている」といって山野辺夫婦に接触し、彼らと一緒に行動するようになりました。

 しかし、そのおかげで本城が用意していた多くの罠をすり抜けることができたんですよね。

 そして、本城のもとにたどり着いた山野辺夫婦は…。

 サイコパスだけが悪意をもっているわけではない

 この続きは実際に本書を読んでもらうとして、伊坂幸太郎さんの小説『死神の浮力』には、サイコパスである本城以外にも、悪意をもった人たちが多数登場します。

 たとえば、マスコミもそのひとつ。娘を殺された小説家という話題になりそうなニュースとあって、連日多くのマスコミが山野辺夫婦の家の前に群がりました。

 彼らは山野辺夫婦の気持ちなんてまったく考えていません。

 それだけでなく、山野辺夫婦が取材を受けないことがわかると、娘の名前が刻印された饅頭を窓に投げつけてくる人間まで現れました。

 もちろん、一般人も似たようなものです。嫌がらせの電話をしたり、手紙を送ってきたりします。

 そんな悪意ある人たちの姿をみていると、サイコパスだけに悪意があるわけではなく、むしろチャンスがあれば誰もがサイコパスのように振る舞うことに気づいたんですよね。

 自分たちが優位な立場にあることを知ると、大勢の人たちが喜んで参加してくるわけです。つまり…。

 サイコパスに立ち向かうのは難しいことだとわかる物語

 サイコパスに立ち向かうには、サイコパスだけでなく、途中参加してくる大勢の人たちとも対峙する必要があるのです。

 というわけで、伊坂幸太郎さんの小説『死神の浮力』は、サイコパスに立ち向かうのがどれほど難しいことなのかがよくわかる物語でした。

 それだけでなく、サスペンスとしても、最後に驚きとスッキリ感が味わえる物語としても、死神シリーズの続編としても楽しめるので…。

 気になった方は、ぜひ読んでみてください。

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