webstation plus

alone_01

 私たち人間には、不快に感じる出来事があっても、最後に楽しい出来事があれば、その楽しさを優先的に思いだす性質がある。同様に、どれだけ楽しい出来事があっても、最後に悲しい出来事で終われば悲しさを思いだす。これが、心理学でいうところの「ピーク・エンドの法則」だ。

 たとえば、誰かに恋をしてお付き合いをし、そして別れたときには――、楽しかった記憶(ピーク)と別れた記憶(エンド)を思いだし、悲しみに浸ることになるだろう。つまり、私たちとって「ピーク」だけが大切なのではなく、「エンド」こそが大切なのである。

 では、最も大切な「エンド」とはなにか。それは、もちろん人生の終わりだ。

 小説『死神の精度』は、終末を迎える人たちを描いた物語である。主人公である千葉は、対象者の終末を見届ける「死神」。普段は雲の上の世界にでも住んでいるのだろうが、対象者が選ばれると「調査部員」として人間の世界に派遣され、一週間の調査を行う。そして、対象者が死ぬべきか否かを上層部に報告する。

 人間の世界に派遣された調査部員たちは、対象者と接触しやすい人間の姿になって一週間を過ごす。カッコいい青年になったり、ひ弱な少年になったりして。しかし、この一週間で上層部へ報告する結果を決めることはほとんどない。実は、調査部員たちはあらかじめ「死ぬべきだ」と報告をすることを決めているからだ。だから、暇さえあれば趣味の音楽に夢中になったりしている。

 では、なぜ死神たちはあらかじめ「死ぬべきだ」と報告することを決めているのだろうか。それは、「人が死ぬことはごく当たり前のことであり、特別なことではない」からだ。私たち人間だけが「いつかは死ぬ」ことを忘れているのである。

 本作品では、「いつかは死ぬ」ことを忘れてしまった5人の対象者と、そして、千葉と出会ってすぐに死ぬことを悟った老女の計6人の終末が描かれている。彼らの終末の過ごし方を通して、これからの自分の人生に思いをはせてみてはどうだろうか。

 私たちは「いつかは必ず死ぬ」。そんな当たり前のことを思い出させてくれる物語である。

 関連記事

成功の秘訣は「情熱」にあり/古川智映子『土佐堀川』

 スティーブ・ジョブズであれ、ラリー・ペイジであれ、イーロン・マスクであれ――彼らはどうして人々を驚かせるような結果を残すことができたのだろう。歴史に残るような偉業を成し遂げることができたのだろう。  結論からいえば、情 …

「ロボットに奪われない仕事」をしよう/池井戸潤『銀行総務特命』

 グーグルの創業者であり、現CEOのラリー・ペイジは、人口知能の急激な発達によって、現在私たちが担当している仕事のほとんどはロボットがやることになるという。加えて次のように断言している。  「近い将来、10人中9人は、今 …

低俗な雑誌や本は、読むだけで誰かを傷つける/『陽気なギャングは三つ数えろ』感想

 警察には事実を、ネットには面白い脚色を  というポリシーでブログを書かれている方も多いと思いますが、あまりにも脚色しすぎると、「とある週刊誌」のように名誉毀損で訴えられることになるかもしれません。ダイエットであれ、お酒 …

なぜ異文化コミュニケーションが必要なのか/和田竜『忍びの国』

 私たちは誰もが独自の文化を持ち、その文化から強い影響を受けている。食文化もそのひとつだ。  たとえば、アメリカの子どもたちは、大人たちに比べて10年ほど寿命が短くなるといわれているが、その原因は食文化にある。毎日新鮮な …

信じる力の恐ろしさを教えてくれる小説『リア王』

 「プラシーボ効果」をご存知でしょうか。  別名、偽薬効果とも呼ばれており、たとえば夜眠れないと訴える患者に、医師が睡眠薬と偽ってビタミン剤を処方すると、患者は薬の効果を信じて安眠できるようになります。  他にも、「もっ …

今の日本人には「武士道」が足りない/浅田次郎『黒書院の六兵衛』

 私たち日本人は「武士道」を失ってしまったのかもしれない。武士道とは、簡単にいえば「臆病者」「卑怯者」ではない生き方を貫くことだ。しかし、今の私たちは、たとえ「臆病者」「卑怯者」と罵られても、お金を生み出し、有名になりさ …

理不尽な出来事もいつかは終わる/『首折り男のための協奏曲』

 理不尽な出来事、多いですよね。たとえば、私の知り合いでものすごく高い給料をもらっているのに、コーヒーを片手に悠々自適に仕事をしている人がいますが、その一方で、朝から晩まで血眼になって働いても、缶コーヒー1本も買う余裕の …

ろくでもない男しか登場しない恋愛小説『恋のゴンドラ』

 この小説に登場する男性が一般的だとすると、多くの女性は男性に失望するのではないでしょうか。なぜなら、ろくでもない男しか登場しないからです。 女性の気持ちを察して行動するのでモテるが、隙あらば浮気しようとする男 女性の気 …

ヒーローと偽善者は紙一重/伊坂幸太郎『火星に住むつもりかい?』

 私たちが住む世界には「理不尽」があふれている。たとえば、リストラがそう。どれだけ会社のために尽くして働いてきたとしても、対象に選ばれた社員は、結局、退職するしかない。何をどう訴えてもだ。もし仮に必死になって訴えた結果、 …

40歳以降の人生を輝かせる方法/重松清『トワイライト』

 40歳という年齢は、「人生の節目」なのかもしれない。  たとえば、有名な心理学者であるユングは「40歳は人生の正午である」と言った。人生を太陽の軌道にたとえるなら、40歳は正午(ピーク)であり、それを過ぎると衰えていく …