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(※『死神の精度』表紙より)


 私たち人間特有の能力って何だかわかりますか。

 それは意味を求めることです。なぜ仕事や勉強をするのか、なぜ結婚をするのか、あるいは、なぜこの子は生まれてきたのかなど、様々なことに意味を求めますよね。

 ある死神は「生きている理由なんてもとからないんだ」と言いますが、私たちは意味を求めるからこそ行動できるんです。

 そんな当たり前のことに気づかせてくれた小説が伊坂幸太郎さんの『死神の精度』。

 今回は『死神の精度』のあらすじとおすすめポイントを紹介します。

 『死神の精度』のあらすじ

 監査部から指示を受けて人間界にやってきた千葉と名乗る死神。彼は、対象者が「死」を実行するのに適しているかどうかを判断するため、人間界にやってきました。

 調査期間は一週間。しかし、調査とは名ばかりで、実際にはほとんどの人が死にます。彼ら死神は、誰がいつ死んでも同じことだと考えていたからです。

 そんな死神と出会った6人の物語を描いたのが『死神の精度』。それぞれ簡単に紹介すると、

『死神の精度』

 大手電機メーカーで苦情処理の仕事をしている藤木一恵が、何度も彼女を指名して苦情をいう男性と実際に会う物語。

 陰気でパッとしない彼女を指名していた男性の理由が面白く、また千葉の決断ににやけてしまいます。

『死神と藤田』

 誠実と任侠で生きてきた藤田が、スジを通すために栗木というヤクザを殺そうとする物語。

 ラストの藤田の行動が、音楽とともに映像として鮮明に浮かび上がってきます。

『吹雪に死神』

 吹雪の中、洋館にたどり着いた千葉が次々と起こる殺人事件の謎を解く物語。

 死神が探偵役というシュールな設定にハマります。

『恋愛で死神』

 誰もが見惚れるような外見をしている萩原が、仕事先のブティックにやって来た女性に恋をし、外見の良さを隠して恋愛を成就させようとする物語。

 萩原の一途な想いに胸が熱くなります。

『旅路を死神』

 幼い頃のトラウマを引きずって人殺しをした森岡が十和田湖まで旅をする物語。

 軽はずみな若者にも悩みがあることがわかります。『重力ピエロ』の主人公・春も登場。

『死神対老女』

 千葉を死神と見破った老女のために、大勢の若者客を美容院に連れてくる物語。

 老女の言葉が胸に刺さります。彼女の正体に驚かされること間違いなし。

 『死神の精度』のおすすめポイント

1. 誰もが自分の行動に意味を求めていることがわかる

 電機メーカーで苦情処理係をしている藤木は、なぜ自分が指名されるのかを知りたいと思い、栗木を殺そうとする藤田の舎弟は、正義は必ず勝つと信じて藤木を応援し、外見の良い萩原は内面の良さで彼女を作ろうとします。

 幼い頃のトラウマを引きずって人殺しをした森岡は、人殺しをする正当な理由を追い求め、老女は人が死ぬことの大切さを千葉に教えます。

 このように誰もが自分の行動に意味を求めていますが、それは人間が考える生き物だからです。

 死神の千葉は、年貢の納め時だと言われると「年貢制度は今でもあるのか?」と言葉を額面通りに受け取りますが、私たち人間はニュアンスでわかりますよね。

 それはどんなことでも考えて、意味を求めているからです。物事を考えようとしない死神と、意味を追い求める私たち人間の対比で、それがよくわかるように構成されているんですよね。

 人間らしさとは、生きる意味を追い求めることだと気づかされる物語です。

2. 死ぬまで人生はどうなるかわからない

 そんな生きる意味を追い求める登場人物たちの言葉が胸に突き刺さります。特に、千葉を死神と見破った老女の言葉が響くんですよね。

 たとえば、彼女は「人はみんな死ぬんだよね」と言った後、

「幸せか不幸かなんてね、死ぬまで分からないんだってさ」
「生きていると何が起こるかなんて、本当に分からないからね」
「一喜一憂しても仕方がない。棺桶の釘を打たれるまで、何が起こるかなんて分からないよ」
「実際さ、幸せだと思ったおじさんも今は、奥さんが新興宗教にはまっちゃて、借金作ってるみたいだし。無敵の政治家が年取ってから、証人喚問に呼ばれたり、有名なスポーツ選手が大きな事故を起こすのを見ていると、ほんと、何が起こるか、死ぬまで分かんないって感じ」

 と、死ぬまで幸せか不幸かはわからないと言います。もっと言えば、生きる意味は後からいくらでも変えられると考えているんですよね。

 他にも、人が死ぬことは特別なことではないと言った後、

「たとえばさ、太陽が空にあるのは当たり前のことで、特別なものではないよね。でも、太陽は大事でしょ。死ぬことも同じじゃないかって思うんだよね。特別じゃないけど、まわりの人にとっては、悲しいし、大事なことなんだ」

 だからこそ、今を必死になって生きることが大切なんですね。

 彼女の言葉に、「今から必死になって生きよう。そうすれば今は不幸でも幸せになれるかも」と励まされます。

3. 自分らしく生きようと思える

 ここまで紹介してきたように、『死神の精度』は、人生は今からでも変えられるがテーマの物語です。

 あえて千葉に意味はないと言わせて、他の登場人物たちがその意味を見出すという構成で描かれているので、彼らが考える「意味」が浮き彫りになってくるんですよね。

 つまり、生きる意味を決めるのは、他の誰でもない自分自身。誰に何を言われようと、自分らしく生きることが大切です。

 そんな6人の姿をみて、自分の生き方を見直したくなる物語です。

 最後に

 伊坂幸太郎さんの小説『死神の精度』。読めば、自分らしく生きようと思える物語です。

 気になった方は、ぜひ読んでみてください。

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