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 私たち人間には、不快に感じる出来事があっても、最後に楽しい出来事があれば、その楽しさを優先的に思いだす性質がある。同様に、どれだけ楽しい出来事があっても、最後に悲しい出来事で終われば悲しさを思いだす。これが、心理学でいうところの「ピーク・エンドの法則」だ。

 たとえば、誰かに恋をしてお付き合いをし、そして別れたときには――、楽しかった記憶(ピーク)と別れた記憶(エンド)を思いだし、悲しみに浸ることになるだろう。つまり、私たちとって「ピーク」だけが大切なのではなく、「エンド」こそが大切なのである。

 では、最も大切な「エンド」とはなにか。それは、もちろん人生の終わりだ。

 小説『死神の精度』は、終末を迎える人たちを描いた物語である。主人公である千葉は、対象者の終末を見届ける「死神」。普段は雲の上の世界にでも住んでいるのだろうが、対象者が選ばれると「調査部員」として人間の世界に派遣され、一週間の調査を行う。そして、対象者が死ぬべきか否かを上層部に報告する。

 人間の世界に派遣された調査部員たちは、対象者と接触しやすい人間の姿になって一週間を過ごす。カッコいい青年になったり、ひ弱な少年になったりして。しかし、この一週間で上層部へ報告する結果を決めることはほとんどない。実は、調査部員たちはあらかじめ「死ぬべきだ」と報告をすることを決めているからだ。だから、暇さえあれば趣味の音楽に夢中になったりしている。

 では、なぜ死神たちはあらかじめ「死ぬべきだ」と報告することを決めているのだろうか。それは、「人が死ぬことはごく当たり前のことであり、特別なことではない」からだ。私たち人間だけが「いつかは死ぬ」ことを忘れているのである。

 本作品では、「いつかは死ぬ」ことを忘れてしまった5人の対象者と、そして、千葉と出会ってすぐに死ぬことを悟った老女の計6人の終末が描かれている。彼らの終末の過ごし方を通して、これからの自分の人生に思いをはせてみてはどうだろうか。

 私たちは「いつかは必ず死ぬ」。そんな当たり前のことを思い出させてくれる物語である。

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