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 昔の自慢話をする人って嫌ですよね。

 私も大嫌いですが、「昔はすごかったんだぞ!」と語りかけてくる物語があります。それが浅田次郎さんの小説『天切り松 闇がたり1』。

 大正時代の悪党どもに「天切り松」と呼ばれる老人が昔話をしながら説教をする…と聞くだけで読むのが嫌になるような設定ですが、読んでみると面白いんですよね。それだけでなく言葉が心に沁みます。

 なぜなら…。

 泥棒のくせに主人公の生き様がかっこいい

 物語の舞台は、大正時代の留置場。冬の夜更けに一人の老人が雑居房に入れられました。

 実はこの老人こそが物語の主人公である天切り松。彼はときどき雑居房に入っては居合わせた泥棒や詐欺師たちに説教をしていました。たとえば、

「にいさん方もたかだか銭金のためにヤマを踏むてえ根性なら、これを限りにきっぱりと足を洗いなせえよ。」

 彼はお金のために盗みを働くなと叱るんですよね。なぜなら、天切り松はお金のためではなく、「曲げてはいけない自分の道を貫くため」に盗みを働いていたからです。

 天切り松が活躍していた時代の盗人たちには、プロとしての誇りがありました。盗まれても困らない天下のお宝だけを奪い、貧しい人たちに救いの手を差し伸べていたのです。

 そのため、「食べるのに困ったから」という自己都合で盗みを働く半端者を見つけたら、警察に捕まる前に半殺しの目にあわせたのだとか。

 だからこそ…。

 必要悪を認める余裕がある時代だった

 警察も天切り松のようなプロの盗人を重宝していたんですよね。つまり、警察と盗人が裏ではつながっていたということです。

 このような背景もあって、警察から「盗んだものを返してほしい」という要望があれば、天切り松たちはできる限り応えていました。今では信じられない繋がりですよね。

 しかし、所詮は敵と味方。裏切られることもあります。そんなときは、どうするのかといえば、無駄に思えても筋を通す行動をとります。

 たとえば、天切り松の同業者であるおこんは、警察の裏切りのせいで師匠を捕らえられたとき、警察に返したものを再び盗み返して相手の目の前で捨てました。「なぜ、そんな無駄なことをしたのか?」と聞かれると、

「無益だって?――ふん、いいかい閣下。世の中にゃ銭金より大事なもんが、いくらだってあるんだ。てめえのような長州の芋侍にはわかるまい。どうりで薄ぼんやりと花火を見てやがると思ったら、ハハッ、どんと上がって消えちまう無益なもんの有難味を、てめえは知らなかったんだねえ」

 って答えるんですよね。ほんとカッコよすぎです。

 しかし、今の私たちの暮らしを振り返ってみると効率を上げて無駄を減らすことに注力しているように思います。必要悪も認めなくなりました。そんな私たちの行動は…。

 効率を上げて無駄を減らすのは自殺行為かもしれない

 自殺行為のように思えます。余裕がないというか、楽しみ方を知らないというか。

 数十年後には多くの仕事がAIやロボティクスに置き換えられると言われています。そうなると、AIやロボティクスにとっての無駄が「私たち人間」になるかもしれません。

 だからこそ、効率ばかりを追いかけて無駄を省くような行動は自殺行為のように思えて仕方ないんですよね。

 ◆

 浅田次郎さんの小説『天切り松 闇がたり1』。読めば、もう少し心に余裕のある暮らしをしようと思える物語です。

 気になった方はぜひ読んでみてください。

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