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 「嫌われる上司の特徴ランキング」に必ずランクインしているのが、「昔の話ばかりする」ですが、「昔はすごかったんだぞ!」と言わんばかりに昔話を語って聞かせる小説があります。それが、『天切り松 闇がたり』シリーズ。

 大正時代の悪党共に、天切り松と呼ばれる老人(盗人)が昔話を通して説教をする――聞くだけで読むのがイヤになりそうな小説ですが、読んでみると本当に面白い。それだけでなく、心に沁みるんですよね。現代に生きる私たちにとって、想像を絶する世界の話だからかもしれません。

 ちなみに、現時点では5巻まで出版されており、今回は1巻の感想になります。

 物語の舞台は、大正時代の留置場。冬の夜更けに一人の老人が雑居房に入れられました。この人物こそが天切り松。彼は雑居房に居合わせた泥棒や詐欺師に早速説教をはじめます。

 「にいさん方もたかだか銭金のためにヤマを踏むてえ根性なら、これを限りにきっぱりと足を洗いなせえよ。」

 お金のために盗みを働かないのなら、なぜ天切り松は盗みを働いてきたのか。それは、「曲げてはいけない自分の道を貫くため」だと言います。

 天切り松が活躍した時代の盗人には、プロとしての誇りがありました。盗まれても困らない天下のお宝だけを奪い、貧しい人たちには救いの手を差し伸べていたそうです。そのため、「食べるのに困ったから」という理由で盗みを働く「半端者」を見つけたなら、警察に捕まる前に半殺しの目にあわせたのだとか。だから、警察からも重宝されていました。

 つまり、警察と盗人は裏で繋がっていたわけですね。そんなこともあり、「盗んだものを返して欲しい」という警察からの要請があれば、出来る限り応えていたそうです。しかし――。第二話『槍の小輔』で警察が裏切ります。彼らの師匠である「仕立て屋銀次」を捕らえたのです。そこで、天切り松の仲間である”おこん”がスジを通すために盗みを働くわけですが、これがカッコ良すぎなんですよね。

 おこんは、警察に返した獲物を再び盗んで、相手の目の前で川に投げ捨ててしまいました。そして、「そんなムダなことをして何になる」という相手からの質問に対してこう答えます。

 「無益だって?――ふん、いいかい閣下。世の中にゃ銭金より大事なもんが、いくらだってあるんだ。てめえのような長州の芋侍にはわかるまい。どうりで薄ぼんやりと花火を見てやがると思ったら、ハハッ、どんと上がって消えちまう無益なもんの有難味を、てめえは知らなかったんだねえ」

 最近では、仕事でも、プライベートでも、家計でも、「ムダを減らして効率よく!」をモットーに生きている人たちが多いと思います。しかし、数十年後には、私たちがしている仕事のほとんどが機械化すると言われていますよね。そうなると、私たちは機械にとっての「ムダ」になるかもしれませんよ。

 そもそも、私たちは日々老いています。どんどん出来ないことが増えていく日が必ず訪れます。しかも、これから日本は超高齢化社会に突入すると言われていますよね。このとき、社会全体が効率のみを追求していたら――間違いなく大勢の人たちが不幸になるでしょう。

 また、第四話『衣紋坂から』では、天切り松の姉が父の借金の肩代わりとして女郎になったことを通し、「必要悪」というものがあることを教えてくれます。

 自由平等は結構なことでござんすよ。だが、口で言う連中は、どだい女郎の苦しみなんざ知らぬ坊ちゃん、嬢ちゃんだ。やつらが人権がどうの差別がどうのってえ、太鼓たたいて足抜けさせた女どもが、それからどうなったか。国に帰ってまっとうな暮らしを始めた者なんぞ、ただのひとりもいやしねえ。

 最近では、「必要悪」以前に「どうでもいいこと」で炎上していますよね。たとえば、新幹線の電光掲示板に時刻を表示しないのは、電車の発車時刻と少しでもずれているとクレームをつけてくる人がいるからだそうです。こんなことで、クレームをつける人たちが増えているなんて…。自殺をする人が増えるのも、こんな生きにくい世の中では仕方がないのかもしれませんね。

 というわけで、小説『闇の花道』は、私たちに「ムダ」の大切さを教えてくれます。「効率」ばかりを追い求めている人は、天切り松の説教を聞いてみてはどうでしょうか。そうすれば、ムダの大切さがわかり、今よりも生きやすい社会を築く一歩になるかもしれませんよ。

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