webstation plus

(※『みかづき』表紙より)


 森絵都さんの小説『みかづき』。

 小学校の用務員として働く大島吾郎が、新たに塾を立ち上げようと考える赤坂千秋と出会い、塾講師として、経営者として奮闘する物語です。読めば塾教育の歴史が楽しみながら学べること間違いなし!?

 今回は『みかづき』のあらすじとおすすめポイントを紹介します。

 小説『みかづき』のあらすじ

 とある小学校で用務員として働く大島吾郎は、子どもたちに頼まれて勉強を教えていました。

 彼の教え方は独創的で、テストで30点も取れなかった子が、80点、90点取れるようになったと大評判。

 そんな彼に目をつけたのが赤坂千秋でした。彼女は自分の娘を吾郎教室に送り込み、彼との接触を図ります。

 その結果、まんまと巻き込まれることになった吾郎は、千秋と結婚。塾講師として奮闘することに。彼らの運命は!?

 学校教育の怖ろしさがわかる

 千秋は教員免許を持っていましたが、学校の先生になろうとはしませんでした。それは、教師という職業の怖ろしさを身をもって知っていたからです。

 戦時中、国民学校では、教育勅語の暗唱が義務付けられていました。一言一句の誤りも許されません。天皇のスバラシサを叩き込まれていたのです。

 そのため、神風とは科学的にどのような仕組みで発生するのかと尋ねると、「不敬なことを」と殴られるのが当然でした。このような鉄拳制裁は、戦局の傾きとともに悪化していきます。

 ところが、戦後になると、そんな彼らが手のひらを返したように平和を口にするようになりました。お国のために死ねと教えていた人たちがです。

 千秋はそんな教師たちが怖ろしくて仕方なかったんですね。だから国から監視されない塾を立ち上げたかった。

 学校教育の怖ろしさがわかる物語です。

 塾の歴史が楽しく学べる

 そんな千秋が吾郎と共に塾を立ち上げます。

 しかし当時、塾講師という職業はバカにされていました。「塾は子どもを食い物にする悪徳商売」「受験戦争を煽る受験屋」などと叩かれていたからです。子どもたちも隠れて通っていました。

 ところが、学習指導要領が新しくなり、義務教育の指導項目が増えると、学校の外に助けを求める子どもが増え、塾が乱立するようになりました。

 ここから、生存をかけた塾同士の潰し合いが始まります。先生や生徒の奪い合い、嫌がらせのビラ、暴力事件などなど。

 また、塾に求められるものも時代とともに変わっていきました。

 もともとは、学校の授業についていけない子どもたちに補習をする、勉強の楽しさを教えるための塾が、受験戦争に勝ち抜くための塾へと変わっていったのです。

 引きこもりの子は塾に通わせないでほしい、その子のせいで勉強が遅れるから…など、自分の子どものことしか考えない親が増えたことも関係していたのかもしれません。

 そして現在。経済格差が激しくなり、塾に通いたくても通えない子どもたちが増えています。そんな子どもたちに救いの手を差し伸べるNPO団体も登場してきました。

 このような塾の歴史が楽しく学べる物語です。

 少し残念なところも…

 とはいえ、少し残念なところも。詳しくは書きませんが、

・登場人物に共感しにくい
・理由もなく家族関係が修復していく
・意味のない描写が多い

 など、物語にのめり込むのが難しいところも。

 ただ、塾がどのような歴史を歩んできたのかは楽しみながら学べます。そこはおすすめ!?

 最後に

 森絵都さんの小説『みかづき』。読めば塾教育の歴史が楽しみながら学べること間違いなし!?

 気になった方は、ぜひ読んでみてください。

 関連記事

コメディとしても楽しめるミステリー小説/伊坂幸太郎『陽気なギャングの日常と襲撃』感想

 ミステリーというと、かっこいい主人公が謎を解き明かして犯人を追い詰めるイメージがありますよね。名探偵コナンもそのひとつです。  もちろん、こういった本格派ミステリーも面白いのですが、伊坂幸太郎さんの小説『陽気なギャング …

人に騙されるのが好きな人が多すぎる/伊坂幸太郎『SOSの猿』感想

 ツイッターを見ていると、ある有名人の発言を徹底的に擁護している人たちがいます。明らかに差別的な発言をしているのに、誰かを傷つけているのに、擁護する人たちがいます。  なぜなら、彼らはその有名人に騙されたいと願っているか …

他人の考えに縛られる必要なんてない/伊坂幸太郎『重力ピエロ』感想

 強姦魔に犯されて生まれてきた子・春が、遺伝子のつながりと家族との絆の間で揺れ動く物語。それが伊坂幸太郎さんの小説『重力ピエロ』です。  とにかく暗い物語ですが、ラストですべてが救われたような気分になれるんですよね。その …

誰とでも対等に付き合ってる?/伊坂幸太郎『チルドレン』感想

 誰とでも対等に付き合っていますか?  私は対等に付き合っていると思っていましたが、伊坂幸太郎さんの小説『チルドレン』を読んで反省しました。自分より能力が劣っていると思っている人たちに対して、上から目線で接していることに …

心揺さぶられる物語!?浅田次郎『おもかげ』は定年退職を迎えたサラリーマンが人生を振り返る小説

(※『おもかげ』表紙より)  浅田次郎さんの小説『おもかげ』。  定年を迎えたサラリーマン・竹脇正一が、送別会の帰りに倒れ、病院内で不思議な体験を繰り返す物語です。  読めば、彼の生き様や家族の温かさに心揺さぶられること …

今の生き方でどれくらい生きるつもり?/伊坂幸太郎『終末のフール』感想

 伊坂幸太郎さんの小説には死をテーマにした物語がいくつかあります。中でも私が好きな小説が『死神の精度』と『終末のフール』。  実はこの二つ。死に対するアプローチが違っているんですよね。どこが違うかと言うと…。 &nbsp …

悪い奴らに対抗するにはどうすればいい?/伊坂幸太郎『フーガはユーガ』感想

 悪い奴らに対抗するにはどうすれば良いのでしょうか。もちろん、瞬間移動しかありませんよね。  そんな特殊能力を持った双子が、極悪非道の人間と戦う姿を描いた小説が、伊坂幸太郎さんの『フーガはユーガ』。内容的にはつらい話ばか …

東野圭吾『探偵ガリレオ』は科学的な視点で事件を解決するミステリー小説

(※『探偵ガリレオ』表紙より)  東野圭吾さんの小説『探偵ガリレオ』。  警視庁捜査一課の草薙俊平が、帝都大学理工学部の准教授・湯川学とともに科学的な視点で事件を解決していくミステリー小説です。読めば、湯川准教授に挑戦し …

なぜ因果は巡るのか?柚月裕子『盤上の向日葵』感想

(※『盤上の向日葵』表紙より)  最近、将棋をテーマにした物語が増えていますよね。  柚月裕子さんの小説『盤上の向日葵』もそのひとつですが、物語のメインはあくまでも人間ドラマ。人物描写が秀逸なミステリー小説です。  なか …

適量を知ることが自分らしく生きる秘訣/柚木麻子『BUTTER』感想

 首都圏連続不審死事件をご存知ですか。多くの男性を虜にして多額の経済的援助を引き出すことに成功した女性・木嶋早苗さんが犯した殺人事件です。  しかし、彼女は若くもなく、美しくもなく、スリムな体型でもありませんでした。そん …