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(※『ちんぷんかん』表紙より)


 畠中恵さんの小説『ちんぷんかん』。

 しゃばけシリーズ第6弾の本作は、兄・松之助の縁談が決まったり、幼馴染・栄吉の弟子入りが決まったりと、若だんなに様々な別れが訪れる物語です。

 なかでも、桜の花びらの妖との出会いと別れは、生死について考えたくなる物語。私たちは終わりがあるから面白く生きられるのかも…と考えさせられるお話です。

 そこで今回は『ちんぷんかん』のあらすじとおすすめポイントを紹介しながら、なぜ終わりがある方が面白いのか?を考えてみたいと思います。

 『ちんぷんかん』のあらすじ(『鬼と小鬼』)

 ついに若だんなが三途の川に!?

 近所で火事がおき、煙を吸いすぎた若だんなは、気がつくと三途の川にいました。

 ここでは、親より先に死んだ子どもたちが、供養のために小石を積んでいました。親より先に死んだ罰を少しでも軽くするために、供養のための塔を作っていたのです。

 しかし、塔を作ろうとすると鬼がやってきて蹴散らします。若だんなも塔を作ろうとしますが、鬼に蹴散らされることに。

 さらに、若だんなにはやるべきことがありました。死んでいないのについてきた妖・鳴家とお獅子を現世に返す必要があったのです。

 それを知った子どもたちは――。

 死んでも自分のことばかり考える人たちに心苦しくなる物語です。

 『ちんぷんかん』のおすすめポイント

1. 少し切ない短編ミステリー

 『ちんぷんかん』は全5章で構成された短編集です。どれも切なくなる物語ばかりなんですよね。

 なかでもおすすめなのが、『男ぶり』『今昔』『はるがいくよ』。

 それぞれ簡単に紹介します。

『男ぶり』

 若だんなの母・おたえの恋物語。

 おたえはとても美しく、多くの縁談がありましたが、すべて断っていました。父が許さなかったからです。

 男前の辰二郎もそのひとり。しかし、彼に好意を寄せていたおたえは、彼の男ぶりを見せつけて結婚を認めさせようとします。

 ちょうどその頃、辰二郎の叔父・水口屋で卵が増えるという不思議な出来事が起こっていました。

 この謎を解いて辰二郎と結婚しようとおたえは必死になりますが――。

 最後は心温まる物語です。

『今昔』

 ついに松之助の縁談が決まる!?

 若だんなの回復を祈って神社に訪れた松之助は、同じく姉の回復を祈る玉乃屋のお咲と出会い、気になる間柄に。

 そこで松之助は玉乃屋の縁談を受けることにしたのですが、縁談相手はお咲ではなく、姉のおくらでした。

 困ったことになった…と悩んでいた松之助に、さらなる悲劇が訪れます。若だんなとおくらが陰陽師に呪い殺されかけたのです。

 これに怒った仁吉と佐吉が陰陽師を捕らえようとしたところ――。

 貧乏神の金次も登場。最後はスッキリする物語です。

『はるがいくよ』

 松之助の結婚祝いを何にしようか考えていた若だんなに、妖たちが次々と贈り物候補を持ってきます。

 掛け軸や着物、草履、春画、茶碗などなど。しかし、その中には見知らぬ赤子の姿がありました。

 その赤子は長崎屋に植えた桜の花びらの妖。彼女の成長は早く、花びらが散る頃には消え去ってしまいます。

 そこで若だんなは、彼女の命を延ばす方法を探しますが、植木職人に聞いても、寛朝御坊に聞いても、そんな方法はないと言われました。

 ところが、仁吉と佐吉から思わぬ提案が。それを聞いた若だんなは――。

 若だんなの決断に切なくなる物語です。

2. 別れをテーマに描いた小説

 『ちんぷんかん』は別れをテーマに描いた小説です。

 兄・松之助は、縁談が決まったので近々長崎屋を出て行くことになり、幼馴染の栄吉は、修行のために他のお店に行くことになりました。

 いつも病弱で行動範囲が狭い若だんなだけが変わらぬまま。

 もちろん若だんなは、松之助や栄吉にとって旅立ちが喜ばしいことだとわかっていますが、それにしても寂しい…。

 若だんなの気持ちが痛いほど伝わってくる物語です。

3. 終わりがあるから面白い!?

 そんな若だんな自身もある決断に迫られます。妖たちとずっと一緒に過ごすか、それとも限られた命を生きるのか。

 その提案を聞いた若だんなの答えは――。

 私たちはどうしても楽しいことが永遠に続けばいいと思ってしまいがちですが、散るからこそ桜の花が美しいように、苦しいからこそ楽しみがあり、終わりがあるからこそ人生も面白いのかもしれませんね。

 毎日を有意義に過ごそうと思える物語です。

 最後に

 畠中恵さんの小説『ちんぷんかん』。読めばなぜ終わりがある方が面白いのか?を考えたくなること間違いなし!?

 気になった方は、ぜひ読んでみてください。

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