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 浮気をしている芸能人の報道をよく見かけるようになりました。ベッキーや乙武さん、矢口真里さんなどなど。

 彼らは浮気の報道をされたあとも、何事もなかったかのようにテレビに出演されていますよね。ほんとスゴイです。私なら恥ずかしくてテレビに出られません。そんな厚顔無恥な人たちだからこそ、浮気ができるのでしょうね。

 ちなみに、私は浮気をする人が大嫌いなので、どうしても彼らを好きになれないのですが、伊坂幸太郎さんの小説『バイバイブラックバード』を読んで、ほんの少しだけ赤の他人の浮気には寛容になれた気がします。

 小説『バイバイブラックバード』のあらすじ

 物語の主人公は、5股している星野一彦。彼は、女性にモテようとか、女性経験の数を競おうとか、そんな低レベルな考えはしていないのですが、なぜか女性に大人気。だから5股できたのですが、運悪くヤバい人の逆鱗に触れたため、2週間後に「バス」に乗せられ、恐ろしいところに連れていかれることになりました。

 その間、一彦が逃げ出さないように監視役として現れたのが、マイ辞書を持つ暴力的な大女、繭美。一彦は繭美にお願いをしてバスに乗せられる前に5人の女性に別れを告げにいくことにしました。――という物語なのですが、いわゆる三角関係のようなドロドロした要素はなく、友情や共感が広がる素敵な物語です。

 繭美という魅力的なキャラクター

 では、なぜドロドロしないのでしょうか。それは、一彦が繭美と結婚するというウソをついて5人の女性に会いに行くからです。他人のことなどまったく考えずに、思ったことは何でも口にしてしまう野蛮な大女と結婚するなら「まぁ、仕方ないか…」と思えそうですよね。

 実際、繭美は彼女たちの前でこのような言葉を口にします。

 「あの映画の中で、ジェイソンに追われている奴らが、『そういえば、別れた恋人の癌の検査結果はどうだったんだろう』なんて想像する余裕があると思うか?ねえだろ。他人の心配なんてのはな、平和な奴らしかしてられないんだよ」

 つい先日終わりを迎えた大河ドラマ『真田丸』の主人公・真田幸村とは正反対の性格とでも言えばいいのでしょうか。

 幸村は、淀殿や秀頼のために自分を犠牲にして徳川家康との戦いに挑みましたが、彼女の辞書には「常識」「愛想」「悩み」「色気」「上品」といった言葉がありません。それらを黒く塗りつぶしているんですよね。そうして、好き勝手に生きていました。

 しかし、そんな繭美も一彦と出会うことで少しずつ考えが変わっていきます。それは、一彦がこんな性格をしていたからかもしれません。

 小説『死神の精度』とは一味違う

 「子供のサッカー見たことあるか?本格的なやつじゃねえぞ。遊びでやってるやつだ。システムなんてあるわけない。ボールが転がりゃ、それこそ十人が十人がみんな、わあ、っと追いかける。で、また反対側に蹴られれば、また、わあ、っと走っていく」
(中略)
「おまえもそれと同じだ」

 つまり、付き合っている女性の数を競おうとか、多くの女性とセックスがしたいといった低レベルな目的を持っているのではなく、「いいなぁ」と思う女性がいたら、何も考えずに交際してしまう。わー、僕はこの子と付き合うんだーって走っていってしまう単純な性格。システムも戦略もありゃしない。

 そんな自分の心に素直に生きる一彦だからこそ、多くの女性から好かれ、繭美の心も動かせたのかもしれませんね。

 そういう意味では、伊坂幸太郎さんの小説『死神の精度』とは違います。『死神の精度』では、死神と登場人物との距離は決して縮まりませんでしたが、繭美という死神は時間とともに一彦との距離を縮めていきます。だから最後には――。

 まとめ

 というわけで、小説『バイバイブラックバード』は、物語の設定、登場人物、セリフどれをとってみても最高の物語です。未読の方は、この機会に読んでみてはどうでしょうか。ほんの少しだけ浮気に対して寛容になれるかもしれませんよ。

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