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 首都圏連続不審死事件をご存知ですか。多くの男性を虜にして多額の経済的援助を引き出すことに成功した女性・木嶋早苗さんが犯した殺人事件です。

 しかし、彼女は若くもなく、美しくもなく、スリムな体型でもありませんでした。そんな彼女が、なぜ多くの男性を手玉に取れたかというと…。

 誰よりも自分らしく生きていたから

 多くの女性は、若さと美しさ、スリムな体型を手に入れようと必死になっていますよね。

 ダイエット本やダイエット食品が飛ぶように売れたり、ライザップが流行ったり、中年女性が美魔女を目指したりと、若さと美しさ、スリムな体型を手に入れるために多くの時間とお金をつぎ込んでいます。

 ところが、木嶋佳苗さん(作中では梶井真菜子)は、どれひとつとして持っていませんでした。むしろ、その逆です。

 それにも関わらず、多くの男性が彼女に魅力を感じたのは、安心感が得られたからです。

 若くて、美人で、スリムな体型の女性は、モテるので、いつ自分から離れていくかわかりません。しかし、梶井なら心配する必要がありませんよね。

 また、劣等感を抱く必要がありませんでした。頑張らなくていいというか、ありのままの自分を受け入れてくれるというか。

 そんな自分を飾ろうとしない梶井に多くの男性が心を許し、ハマっていったのですが…。ハマったのは男性だけではありませんでした。

 常識を打ち破る梶井に誰もが魅力を感じる

 梶井に取材を申し込んだ女性記者・里佳もそのひとり。里佳は、出会ったその日から梶井に魅了されます。

 里佳はスリムで美しい自分をキープしようと努力していました。仕事も出来て、彼氏とも仲良く過ごして…という世間の多くが望んでいる女性像を知らず知らずのうちに目指していたんですよね。

 しかし、梶井は何の努力もせずに里佳よりも多くのものを手に入れていました。

 そこで里佳は梶井の言うことに従うようになります。「バター醤油ご飯を作りなさい」と言われれば、高級なバターを買って実際に作り、「セックスをしたあとにバターラーメンを食べろ」と言われれば、自分から彼氏をホテルに誘います。

 こうして里佳は、これまで知らなかった快感を覚えるのですが…。

 自分の適量を知ることが幸せの第一歩

 その後、里佳はいろいろな出来事を乗り越えて、自分にとっての適量が望ましいことを悟ります。

 世間の多くの女性が目指している人生でも、梶井のような常識破りの人生でもなく、自分にあった適量を知り、自分らしく生きることが幸せだと気づくんですよね。

 なぜ、彼女が適量が大切だと悟ったのかは、実際に読んで確かめてほしいのですが、私たちは誰かの意見に左右されがちです。常識を大切にしたり、常識はずれを目指したり…。

 しかし、それでは他人に振りまわされているだけです。だからこそ、自分にとっての適量を知り、誰よりも自分を大切にする――自分らしく生きることが大切なんですよね。それがよくわかる物語です。

 ◆

 柚月麻子さんの小説『BUTTER』。適量を知ることが自分らしく生きる秘訣だとわかる物語です。ちなみに、読めば今すぐバターが食べたくなりますよ。

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