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 私たちが苦しんだり、悩んだりしているのは、現実を受け入れられないときだ。たとえば、結婚相手がイメージしていた人と違っていたとき。真面目で優しい人だと思っていた相手が、実は浮気性で夜遊びがヒドイことに気づいたときなど、私たちは現実を受け入れられなくなる。

 すると、どうなるのか。多くの人は「現実を見ないようにする」か、「相手のせいにする」ことで現実と向き合わなくなってしまう。しかし、これでは問題が解決することなどない。そればかりか、悪化していく一方だ。

 では、どうすればいいのだろう。小説『本屋さんのダイアナ』は、ひとつの解決策を教えてくれる。

 物語の主人公は小学三年生の矢島ダイアナ。彼女は普通の女の子になることを夢見ていた。金髪に染められた髪。「大穴」と書いてダイアナと読む名前。日本人なのにティアラと名乗るキャバ嬢の母親――彼女はこれら全てがイヤだった。あくまでも普通の女の子として過ごしたかったのだ。

 もう一人の主人公・神埼彩子も、今とは違う自分になることを夢見ていた。「家」という閉じこもった空間ではなく、刺激のある外の世界に憧れを抱いていた。洗練された物、教育、言葉などに囲まれ、お嬢様として過ごす毎日から抜け出したいと願っていた。そんな彩子にとってダイアナの日常は、夢のように思えた。ジャンクフードや光るシール、人気アニメのキャラクターがまぶしい。

 つまり、彼女たちは互いに自分が求めているものをもっていたのである。だから、彼女たちは惹かれあった。しかし、ある事件をキッカケに離れてしまうことに。その後、成長した彼女たちはそれぞれの道を歩みだす。ダイアナは書店で働き始め、彩子は大学に進学したのだが――それぞれがツライ想いをすることになった。それは、彼女たちがこれまで自分と向き合うことなく過ごしてきたからだ。

 シングルマザーの母に育てられたダイアナは、子どもの頃から父親に理想を抱いて生きてきた。キャバ嬢として働き、自分を養い育ててくれた母を見下しては得意になっていた。また、「目つきが悪い」「お高くとまっている」とまわりから指摘されても、彼女は自分を変えようとはしなかった。「大人になって、知的で成熟した人間に囲まれれば、自分の評価は変わる」と強く信じていたからだ。

 しかし、書店員として働き始めて彼女は気づいた。現実はそれほど甘くはないということに。社会人となった彼女は、自分のダメなところを指摘されることなく見放されてしまう。それなら、「目つきが悪い」だの、「お高くとまっている」だのと嫌悪感をあらわにする中高生のほうがマシだった――ということに彼女は気づいたのである。

 それだけではない。理想としていた父親は、実はロクでもない人間だった。それを知りながらも、母は黙ってくれていたのである。彼女がどれだけ母を見下しても、母は彼女に愛情を注ぎ続けてくれたのだ。

 ようやく彼女は気づいた。自分が「まったく現実を見ていなかった」ということに。そして、ついに彼女は現実を受け入れる。ロクでもない父親、キャバ嬢である母親、そして、何ひとつ出来ない自分を――。

 一方の彩子は、大学の新歓コンパで上級生にレイプされてしまう。しかし、彼女はレイプ魔と交際することで「その事実」をなかったことにしようとした。あれはレイプではない、自ら望んだことなのだ――そう頑なに思い込むことで、自分の人生すべてを肯定しようとした。では、なぜ彼女はレイプ魔に引っかかり、その事実を「自ら望んだこと」だと思い込もうとしたのだろうか。

 それは、彼女の両親が「汚いもの」や「酷いもの」を彼女に見せてこなかったからだ。体にいいものだけを食べ、最高の教育環境を与え、それ以外のものは全て排除してきたからである。だから、彩子は人を疑うすべを身に付けられなかった。酒の席でさりげなく人をあしらう方法を学べなかった。怒りをあらわにして、真っ向から敵と闘う力を持つことができなかったのだ。

 さらに、親の言うことにはすべて従ってきたので、彼女は誰かに従うことで安心できた。親のいうことが自分にとってマイナスの出来事であっても、「プラスになる」と頑なに信じて生きてきた、すなわち自分を騙して生きてきたので、自分を騙すことに抵抗がなかったのだ。だから、簡単にレイプ魔に従ってしまった。彼女にとっては、「支配者が親からレイプ魔に変わっただけ」だったのである。

 しかし、ある事件がキッカケで彼女は目覚める。レイプ魔が新たな被害者を出したのだ。そして、彩子がその加害者の一人としてまわりからみられるようになったのである。そこでようやく彼女はレイプされた事実を受け入れる。そして、自らが先頭に立ってレイプ魔と法廷で闘っていく決意をする。そうすることで、彼女ははじめて自分を好きになることができた。

 さて、この物語から「現実をありのままに受け入れる」ことが幸せになるための一歩だということがわかるが、一方で「つらい現実」を受け入れるには勇気がいる。だから、彼女たちも「現実に向き合わざるを得ない状況」に追い込まれて初めて現実と向き合ったのだ。

 もちろん、それもひとつの方法だろう。しかし、できれば「追い込まれる前」に現実と向き合いたい。そのためには、過去のエントリでも紹介した「論理的な批判を受け入れる」必要がある。

 実際、彼女たちにも「その機会」はあった。現実と向き合うためのチャンスだ。しかし、彼女たちは頑なに他人の意見に耳を傾けようとはしなかった。だから、そうせざるを得ない状況――職場の人たちから見放されたり、レイプされたりという状況に追い込まれたのだ。

 冒頭に紹介した「結婚相手が思うような相手ではなかった」というのも同じだろう。結婚してしまったのなら、その現実を受け入れて乗り越えていくしかないのだが、それまでにはきっと親や友人たちから指摘されているはず。それらを振り切って結婚したのは、その人自身である。

 だから、できるだけ批判的な意見に耳を傾けるようにしていこう。そうすれば、彼女たちのように「最悪の状況」に追い込まれなくても、現実と向き合えるはずだ。今よりも幸せな選択ができるはずだ。

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