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 最初の数ページがつまらないと本を閉じたくなりますよね。

 本屋大賞2019で見事1位に輝いた小説『そして、バトンは渡された』がそうだったのですが、我慢強く飛ばし読みしていくと、突然、面白くなりました。

 最初の数十ページは酷い

 主人公の優子ちゃんが頭の中がお花畑な発言を繰り返すので、正直読んでられませんでした。

「森宮さん、次に結婚するとしたら、意地悪な人としてくれないかな」
「いつもいい人に囲まれてるっていうのも、たいへんなんだよね。次の母親はちょっとぐらい悪い人のほうが何かと便利かなって」

 いや、ありえないでしょう。両親が何度も変わって、しかも今は血の繋がりのない赤の他人と暮らしているのに不自由を感じていないなんて。しかも、この発言は頭が悪すぎです。

 ところが…。

 優子ちゃんが異常に強いことに気づく

 ある出来事がキッカケで、高校の同級生全員から無視されるようになった優子ちゃん。しかし、まったく動じないんですよね。

 それどころか、友達はそれほど大事なものじゃない。優先順位をつけるなら、勉強の方が大事だ、と受験勉強に励みます。

 ここで「あれ?」っと思いはじめたのですが、それは優子ちゃんが「とてもズレた人間」なのか、「それ以上の苦労を乗り越えてきた強い人間」なのか、どちらか気になったからです。

 この謎が気になり、もう一度はじめから読み直すことにしました。

 優子ちゃんは周りは良い人ばかりと言うけれど

 これは優子ちゃんがズレているからだと思います。実際、同級生からも「優子ちゃんはズレているよね」と何度も言われています。

 もちろん、色々な苦労を乗り越えてきたから、強くなったというのもあるでしょうが、そもそも、最後に親になった森宮さん以外は自分のことしか考えていません。

 いろいろ理由をつけていいように描かれていますが、ブラジル出向に子供を一緒に連れて行かなかった本当の父、自分のことを何よりも優先する梨花さん、コミュニケーションを取ろうとしなかった泉ヶ原さん。

 彼らのどこがいい人なの?誰も優子ちゃんとの距離を縮めようとしていないんですよね。

 また、この物語は最初と最後を除いて、優子ちゃん視点で描かれています。だから、ズレた優子ちゃんからみると、彼らがいいように見えるだけなのでは?…なんて、穿った考えをしてしまいます。

 変わり者の森宮さんが優子ちゃんを救う

 そんな誰からも(本当の意味で)愛されてこなかった優子ちゃんを唯一愛したのが、変わり者の森宮さん。

 現実にも、ちょっとズレてて結婚は無理そうだけど、真面目で面倒見がよく、優しい人っていますよね。まさにそれが森宮さんです。

 とはいえ、本当にあったかい人。そんな森宮さんと優子ちゃんのやりとりを見ていると、とてもあったかい気持ちになれるんですよね。本当の親子以上に親子というか。

 虐待を解決する方法は森宮さんを見つけること

 最近、虐待のニュースが多いですよね。それは血の繋がりはあっても、子どもとの人間関係が築けない、子どもみたいな親が増えているからです。

 しかし、そんな親に「しっかりしろ」と叱っても無駄。それなら、森宮さんのような面倒見が良い人を見つけ、預けた方がうまくいくんじゃないかと思うようになりました。

 そんな考えにさせてくれた小説が瀬尾まいこさんの小説『そして、バトンは渡された』。おすすめです。

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