家族のことを大切に思っていますか。
私は誰よりも家族を大切にしていると自負していましたが、伊坂幸太郎さんの小説『AX アックス』を読んで少し考えが変わりました。家族思いの殺し屋に衝撃を受けたからです。
殺し屋なのにここまで家族思いとは…。それだけで物語に惹きこまれます。
最強の殺し屋なのに妻に頭が上がらないという設定に惹きこまれる
伊坂幸太郎さんの殺し屋シリーズも『AX アックス』で三作目。これまでの殺し屋シリーズでは怒りが湧いてくる理不尽な物語が語られてきましたが、『AX アックス』は違います。
最強の殺し屋なのに妻に頭が上がらないという面白さが物語の至るところに散りばめられているんですよね。
たとえば、主人公の兜は夜食にカップラーメンを食べるなんてありえないと言います。なぜなら、
「包装しているビニールを破る音、蓋を開ける音、お湯を入れる音、深夜に食べるにはあまりにもうるさい」
その音に気づかれて妻が起きてしまったら、「うるさくて、まるで眠れなかった」と指摘され、息苦しくなるので…。夜食はソーセージだけです。
他にも、「今日の夕食、トンカツでいい?」と聞かれてトンカツを食べるつもりになっていても、「夕食、トンカツじゃなくてもう少しあっさりしたものでいいかな。そうめんとか」と聞かれると、
「俺も、そうめんくらいのほうがいいように思っていたところなんだ」
と答えるほど妻に頭が上がりません。そんな兜が超一流の殺し屋という設定に物語の面白さがあります。
なぜ、最強の殺し屋が家族思いになったのか?
ネタバレになるので、あまり詳しくは書きませんが、妻の一言で人生が大きく変わったからです。
生まれながらにして悪の道を歩み続け、生きる意味を見失い、過ぎていくだけの日々を過ごしていた兜に、街角でチラシを配っていた妻の一言が響いたんですよね。
この事実を知ったとき、私は涙が止まりませんでした。兜は「幸せに生きてこれなかった人生を取り戻すために」、どれだけ自分を犠牲にしても妻と子どもを守る決意をしていたからです。
だからこそ、妻のどんな要求にも最優先で対応していたのです。息子の進路相談と殺しの依頼が重なったときも、妻の機嫌が悪くなる前に殺しを終えるように必死になります。なぜか美人教師との関係を疑われてしまいますが。
もちろん、妻だけでなく息子を思う気持ちも負けていません。
死んだ後も家族の幸せを守り抜く
妻も息子も兜が殺し屋だとは知らなかったので、兜はもしものときを考えて、いろいろ準備していました。死んでからも家族を守ろうとしていたんですよね。
実際、そのおかげで兜の息子は救われました。これこそが家族を想う気持ち。ぜひ実際に読んで、兜の真っ直ぐな気持ちに涙してください。
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伊坂幸太郎さんの小説『AX アックス』。兜の家族思いの行動に泣いたり、笑ったりできる物語です。
気になった方は、ぜひ読んでみてください。
※他の殺し屋シリーズもおすすめです。