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 小説『利休にたずねよ』には、大きな謎が三つある。

 ひとつは、「利休はなぜ美の頂点に君臨することができたのか」。当時、茶の湯には人を殺してでも手に入れたいほどの麗しさがあり、道具ばかりでなく、点前の所作にもそれほどの美しさがあると考えられていた。音楽や絵画などを含めた芸術のなかで、最も優れていたのが茶道であり、その頂点に立っていたのが千利休である。

 では、なぜ利休は茶道の頂点に立つことができたのか。それは、若い頃に愛し、そして殺してしまった高麗の女性に、「もう一度、茶を振舞いたい」という想いを持ち続けていたからだ。「最高の茶を飲ませたい」「もてなしてやりたい」という叶わぬ夢を実現するために、一心腐乱に茶の湯に取り組んできたからである。

 あの豊臣秀吉も、茶の湯を評価していた。しかし、その評価は利休とは違い、「人を手管につかうための手段」としての評価だった。

 たとえば、五人の部下がいたとする。五人のなかの二人だけ、狭い茶室に召して馳走し、上杉家伝来の名宝などを見せたとする。すると、召された二人はどんな気持ちになるか、召されなかった三人はなんと思うか。きっと、召された二人は誉れに感じ、召されなかった三人は嫉妬することになるだろう。すなわち、茶の湯とは、人の心を狂わせる魔性の遊芸であり、人たらしの秀吉にとっては「どうしても身につけておきたい芸術」だったのである。

 だから秀吉は、茶の湯の頂点に立つ利休に嫉妬していた。これが二つ目の謎「なぜ、利休は切腹を命じられたのか。そしてなぜ利休は、多くのとりなしを振り切り、打開策を取らずにあえて秀吉と対立し、切腹したのか?」につながっていく。

 秀吉は利休に切腹を命じた。その理由は二つ。大徳寺山門に安置された利休の木像が不敬であること。そして、茶道具を法外な高値で売り、売僧となりはてたことであった。しかし、木像は山門重層部寄進の礼として大徳寺側が置いたものであるし、茶道具のことなど言いがかりもはなはだしい。つまり、理由などどうでも良く、秀吉は利休に頭を下げることを求めたのである。

 しかし、利休は頭を下げなかった。「天下をうごかしているのは、武力と銭金だけではない。美しいものにも、力がある。美の深淵を見せつけ、あの高慢な男の鼻をへし折ってやりたい」――そういう対抗意識があったからだ。だから、多くのとりなしを振り切り、打開策も取らずにあえて切腹したのである。

 最後に、三つ目の謎。それは、本書『利休にたずねよ』というタイトルに込められた真意である。作家の宮部みゆきさんは、文庫本の解説で、「作者は利休に、何を『たずねよ』と呼びかけているのか。一人ひとりの読者によって、この<解>は異なるかもしれません。これこそが小説の醍醐味です」といわれている。

 そして、「利休さん、あなたがもっとも深く愛した女性は、やっぱり宗恩ですね」と続ける。「高麗の女性ではなく、奥さんである宗恩を最も愛したんですよね」と尋ねることが宮部さんの解だというのだ。

 ちなみに、私の見解は宮部さんのものとは違う。秀吉が悔し紛れに発した言葉、それこそが「利休にたずねよ」だと考えている。

 秀吉は利休が切腹したことを悔やんでいた。美をあやつることで利休に適わなかった秀吉は、利休が切腹したことで永遠に適わなくなってしまったからだ。そうして、美の頂点を手に入れた秀吉は、ある日部下から「どうすれば美の頂点が極められるのでしょうか」と尋ねられる。そこで悔し紛れに放った言葉が――「利休にたずねよ」ではないか。そう考えている。

 もちろん、これはひとつの仮説にすぎない。他にもいろいろな解が考えられるだろう。あなたも本書を読んで、自分なりの「解」を考えてみてはどうだろうか。

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